とぎれとぎれの Silent Night
だれも知らない深い森の奥
夜の遊園地 ひとりでに動き出す
二人を乗せた観覧車の窓
ミルフィーユみたいなペガサスの羽が舞う
視界をさえぎるように吐く息が真っ白で
繋いでいる手はすでに感覚がなく、それでも固く握り合ったまま
二人言葉もなく、ただ歩いた。
このままこの街にいても治る兆しがみえないと三日前、医者に言われた。
ここだって十分にいい環境なはずなのに、もうぬるい自然治療では間に合わないんだろう。
「そこって遠いの?」
「うん・・・」
「・・・そう」
ひっそりとしたサナトリウムの白い壁。まぶしさから目を逸らすようにカオルを抱きしめた。
折れそうなくらいの華奢な身体を俺に預けて寝息のような柔らかい呼吸を繰り返す。
「今日は、だいぶ楽なの。
シブキは・・・?」
「俺も」
毎日をただ生きるために過ごす。
同じ運命の俺とカオル。
散々病院をたらい回しさせられてここに来た。
そしてそこにカオルがいた。
生きることにウンザリしてた俺を優しく包んでくれた。
初めて人を好きになった。
未来が見えない俺たちは今を、ただ寄り添ってお互いの鼓動を確認しあう。
「あたしも一緒に行きたい」
「・・・・・」
「シブキと離れたくない」
「・・・俺だって」
だけどきっと叶わない。
それくらい俺の病状は悪化しているんだろう。
そしてきっと治らない・・・。
町外れの寂れた遊園地。
誰も居ない園内に二人の靴音が響く。
しんとした冷たい空気が俺たちの身体を締め付ける。
「少し休もうか?」
「んん・・・平気」
ふたり離れなければならなのなら、
ふたり一緒に居れるところへ行こう と言った。
柔らかく微笑みながらカオルが頷いた。
じわじわと進行する病状を騙し騙し静かな日々をただ過ごしていた。
あらゆる刺激から隔離された場所で。
毎日のように窓の外の景色をただ眺めていた。
遠くに揺れるこの観覧車が、やけにまぶしく見えていた。
「デートみたいだね」
カオルの手を引いて、止まったままの観覧車に乗り込む。
光も何もない暗い箱の中。
並んで座って身を寄せ合う。
白い顔で俺を見上げるカオル。うっすらとその頬に笑窪が浮かぶ。
「恋人同士みたいだね」
月も凍る夜空 君の瞳見てると
胸の奥が少し痛いのはなぜ
滲む小さな街明かり。
震える唇でカオルの頬にそっとキスをした。