奇麗になりたい
- リカ -
銀座の雑踏を横目に車のシートに深く沈みこむ。
見慣れた風景、通いなれた劇場、通り過ぎて車を降りた。
(まだ何ヶ月も経ってないのに、すっごくナチュラルに女性に戻ってますね)
なんてよく言われるけど、これがホントの私だっての。
無理に自分を作らなくてよくなった分、気持ちがすごく軽くなった感じ。
まあ、長年やってきた癖はそんな簡単には抜けてくれないだろうけどね。
次の仕事の打ち合わせで待ち合わせた控え室で、
時間つぶしで何気に手にした雑誌をパラパラめくってたら
よく知った顔が目に入った。
ふーん、なんかまたちょっと
柔らかくなったんじゃなあい?
みるみるキレイになっていくあなた。
ちょっとの変化だってすぐわかっちゃう。
どれくらい私があなたを見ているかなんて、きっと気付いてなんていないでしょうけど。
すっごい届いてるわよ、私に。
あなたが進化してるってこと。
キラキラに輝いてて
見るたびにごとにびっくりするくらいオトナっぽくなってて、
だけど変わらないその真っ直ぐな視線と姿に
胸の奥が熱くなる。
嬉しい反面、負けらんないって 思っちゃう。
サバイバルな環境で、とにかく前に進むしかない今の私。
みっともないとこ見せらんない。
いつだっていいとこ見せていたいもん。
進化してる、だけど変わらないあなたの瞳が私を見てるんだから。
今日の仕事全部片付けてマンションに戻ると、ソファーの横には積み上げられたダンボール。
開けられないまま、とりあえず放置されているのはこれだけじゃないけど。
まとまった時間取れるまで気分が向かない。
ふう、と見てみないフリして溜息。軽く目を閉じると昼間見た顔が思い浮かんだ。
ちょうど東京にいるのよね。
今やってるの、いつまでって言ってたっけ?
っていうか今日何曜日だっけ・・・?
外部(そと)に出ちゃったらこんな感じ。
曜日の感覚なんてありゃしない。
まあ、むかしっから水曜日基準でぐるぐる働かされて日にちの感覚なんて
わけわかんないで生活してたけどね。
カレンダーに目をやり、腕時計で何時か確認。
ソファーに移動しながら大丈夫だろうとケータイを開く。
長めの呼び出し音のあと、慌てて取りましたって感じの声が耳に飛び込む。
『あ、もしもしっ』
「タニ? 私。
お疲れさま」
『はい、お疲れ様ですっ』
「今、いい?」
『あっ うん、大丈夫』
懐かしいなと思うなんて、おかしいかな。
心地よい声が私の名前を呼ぶ。
『リカさん、今日仕事だったの?』
「うん、そ。帝劇で打ち合わせ。そっちも今日公演だったでしょ?
近くにいたんだよ。だから」
『ええー、そうだったの?・・・何か嬉しいな』
「何がよ」
『リカさんが近くに居たんだってことが』
「顔も見てないのに?」
『見てないけど ウレシイ』
「ヘンなの」
コロコロと笑うような声がくすぐったい。
弾む声をもっと聴きたい。目を閉じてケータイを耳に強く押しあてる。
距離があいた分、逢えない時間分、変わらないその声で私を満たして欲しい。
『リカさん?』
どうしてそんなに嬉しそうな声?
もっともっと感じたくて、たまらなくなって口にしてみる。
ねえ、
「最近、キレイになったんじゃない?」
誰のため、キレイになるの?