律儀っていうか真面目っていうか・・・。
ふと思いついて本番中、何気に振ったトークのお題。チカちゃん以外はすっかり
リラックスモードで、頑張れコメントをそれぞれに彼女へ投げる。
ハンカチ用意してましたから、って
ほんとこんなとこまで真面目なんだから・・・。
こぼれそうになる涙をハンカチでおさえ拭う指が少し震えてた。
「チカちゃん、大丈夫〜?」
CS用座談会の収録後、もひとつある雑誌のインタビュー時間までを
カフェテリアで過ごそうと向かった廊下の先に
疲れたような足取りで歩く後ろ姿の彼女を見つけ、おどけた口調で声をかけた。
肩が気付いて足が止まる。
「大丈夫じゃないですよ〜。も〜顔サイアク」
ハンカチで顔を隠したまま、うらめしそうに振り返る。目が合うと軽く会釈して
すぐそばのパウダールームへ入ろうとしてたので何も考えずその後に続いた。
うっすらと赤く染まった両目のまわりを
あ〜あ、と小さくつぶやきながら指でなぞってる。
鏡に越しに顔を覗き込みながら私もあ〜あ、と少し意地悪く真似る。
「これひくまで外出れないですよもう」
「どれどれ」
両手をすっと伸ばしてその頬に添える。びっくりして少し後ずさりするのを
制止するように顔を私の方へ向けさせる。
「みっ、見ないで下さい・・・」
「冷やしたがいいかもね」
至近距離に照れて視線をそらしてる目の端を指でなぞる。
そこにうっすら残ってた熱を指をずらしそっと乗せた唇に移す。
「・・・泣き虫」
「誰のせいだと・・・」
キスで塞いだ唇から緊張が解けだす。
固く瞑られてた瞼が、震える睫が徐々に柔らかい形に変わりだす。
「・・・残されるほうがツライんですよ?」
「わかってる」
「なのにこんなの・・・意地悪だ・・・」
ふにゃあとまた泣き出しそうな顔をして私を見つめる。
愛しくて、どうしようもなく愛しくて、頭を包み込むようにしてぎゅっと抱きしめた。
触れる頬と頬を猫のように擦り合わせて愛しさを伝えようとする。
「もう泣かないで。またはれちゃうよ?」
「いいです・・・もう・・・。コムさんのせいだって言いますから」
「よかったね。この後仕事なくて」
わざとらしくニッコリしてみせる。
「あ、まだ取材残ってるって言ってましたね。時間・・・」
「まだだよん。余裕でチカちゃんとぉ」
「あたしと?」
「キスしてる時間、ある」
どちらともなく顔を近づける。ゆっくりと目を閉じて唇を待つ。
震える空気が分かる距離でつまらないじらしを入れられる。
「誰か来ちゃうかも・・・」
「いいよ・・・見られても」
「ダメで・・・っ」
奪うようにキスをする。
戸惑いはすぐになくなり、柔らかい重なりが熱をもちはじめる。
もっと、とでもいうように舌で唇をなぞると小さく吐息混じりの声が漏れた。
深く、もっと深く・・・。
いつのまにか腰に廻されてた手が、私の身体を抱きしめるように引き寄せる。
長い長いキスの終わり。名残惜し気に唇を離してそのまま顔を首に埋める。
抱きしめられたまま甘えるように身体を預ける。
いつもこのぬくもりをこうして感じてた。年下の彼女に・・・。
この包まれてる安堵感が心地よくて、いつだって私が甘えてばかりだった。
「あの・・・」
「や。もう少しこのまま」
胸元に添えていた手でシャツをぎゅっと掴む。
諦めたような小さな、だけど深いため息と共に抱かれる腕に力が込められる。
互いの呼吸だけが静かに繰り返えされるほんの束の間の空間。
「どうすれば・・・いいですか・・・?」
「なにを?」
「あたしまだ・・・コムさんを・・・」
「私を?」
「・・・好きでいても、いいですか・・・?」
「・・・ダメだよ」
「えっ・・・」
ゆっくりと顔を上げると困惑したような絶望したような表情で私を見ている。
「そん・・・」
「ダメだよ」
私の答えに身体も言葉も凍りついてしまった。
預けてた頭を少し浮かせて鼻先で頬に触れる。
そのまま肌をなぞるようにして耳元まで唇を持っていった。
そして誘うように囁いた。
「ずっと好きでいなきゃ・・・ダメ」
「コムさ・・・っ」
「好きだよ、チカちゃん。大好き・・・」
「そんなふうに喋られると、くすぐったいです・・・」
穏やかに降ってくる声が、涙声になってるのに気付かないふりして
今までで一番暖かくて優しく包まれる腕を身体中で感じていた。
もう少しだけ
こうやって抱きしめていて・・・。