Last Holy Night
<1>
楽まであと2日。
休演日前の連休公演で最高潮に興奮していた身体も昼過ぎにはやっと落ち着いてきた。
ほどよいとは言えない疲れはまだくすぶったままだけど。
退団前のハードスケジュール。組まれた仕事にめまぐるしく動かされ
時間の流れを感じる間もなく過ぎていくような日々。
「今日ってイヴなんだ・・・」
カレンダーを見て呟く。
去年の今日は何してたんだっけ?
ぼんやりとした頭のまま窓の外に目を移す。
まだ日は高く、眩しいくらいの冬の太陽が目に焼きつく。
車のキーとバッグと
コートを取って駐車場へ向かう。
都市高には乗らない。ただあてもなく前に続く道を走る。
いつもは助手席の私、だんだんと感を取り戻しながらウインカーを上げる。
見慣れた街並みを抜け出し、どこでもいい、騒がしくない場所なら。
ボリュームを抑えたカーステレオを普段はめったに聴かないラジオに切り替える。
この時期限定のお決まりなクリスマスソングが次から次に耳に入ってくる。
Last Christmas eve for you
本当に好きなひとと
ああ、この曲も聴いたことあるわ。
最後のイヴは 過ごしたいと言ったね
イベントに踊らされたりするのはあまり好きじゃない。
けど、
今日だけは口実にしてもいい。
車を停め、ケータイの電源を入れる。
逢いたい
一言だけのメール。
短いけど効果的な言葉、か。
なんかどっかで聞いたような文句ね。
ふっ と笑いながら、短い発信音を確認してケータイを閉じる。
いつ気づくかもわからないメッセージ。
いつから私はこんなに待てる女になったんだろう。
ケータイの着信音が響く。
対向車のヘッドライトがぽつりぽつりと目につく。
渋滞を避けて路地を曲がる。
足早に迫る夕暮れを背に、寂しさがわけもなく押し寄せてくる。
早く
逢いたい。