Last Holy Night
<2>
朝から落ち着かない。
このソワソワした気持ちは今に始まったわけではないのだけど。
午前中で解散になったお稽古。
そのまま帰りたくなくて街をぶらつく。
今日ってイヴなんだよね・・・。
何となく賑やかな雰囲気に飲まれながら、ぼんやりとショーウィンドウを眺める。
「マフラー か・・・」
ぽつりと呟く。
年末に向けて加速するように毎日があっという間に過ぎてゆく。
もともと物怖じしない性格だから、新しい環境に慣れるのも
そう時間はかからなかったと思う。
課題も山積み、ただひたすらに身体を動かして、とにかく忙しくて・・・。
なんて。
言い訳だ。
自分に言い訳。
そうでもしないとつらいから。
リカさんの声を聞かないままでいる日が一日一日増えていく。
あたしの比じゃなく卒業を目前にしてるリカさんのスケジュールは忙しい。
同じ組じゃない今、そのほとんどを把握出来てないけど、きっとすごく忙しい。
前みたくカンタンに声を掛けれないでいる・・・。
最後に逢ったのはいつだろう。
稽古場を覗くのもためらわれる始末。
距離が遠くなる。
毎日だと鬱陶しがられるかもしれないと思って遠慮がちになるメール。
電話なんてかけれない。
逢いたいのに。
声が聴きたいのに。
触れて、抱きしめて、キスして、
そばにいたいのに。
このままじゃそれも叶わなくなるのかもしれない・・・。
「それ、プレゼント用で」
マンションに押しかける勇気もない。
いつ渡すあてもない紙袋をさげて家路に向かう道をたどりながら
ふいに手にしたケータイのメールの着信音にどきっとした。
毎日毎日、表示してはそれ以上ボタンが押せなかった名前。
「逢いたい・・・」
「じゃあ、そっち拾いにいくから」
「お願いします」
「行きたいところ。
あるなら考えておいて」
短い会話。久しぶりに聴いた声に胸がつまりそうになる。
逢える嬉しさと、わけのわからない不安定な気持ちがないまぜになってる。
行きたいところ・・・なんて、今までそんな事聞かれたことなかった。
「リカさん・・・」
肩から下げた紙袋を身体に引き寄せる。
ああ、ちょうどこれを渡せるじゃない。
もういつ逢えるかわかんないし。
ふふ、何、あたしなんだかすごくネガティブになってない?
寂しいのに笑ってる。変なの。
・・・もしかして最後のデートになるかもしれないのかな。
胸が、キクンとした。
「港の公園で花火が上がったんですって。リカさん知ってました?」
ずっと前に交わした会話がふとあたしの頭をよぎった。