Last Holy Night
                                       <3>






          「ここなら見えるんじゃない?」

 

          高いビルに挟まれた立体駐車場の屋上に車を停める。

          冷たいビル風に二人、目を細めながら

          かすかな音をたよりに遠くの空を見回す。

          「あ、見えたっ」

          コートのポケットに両手を突っ込んで立ってる私の肩を

          くるりと反転させて、その音のする空を指差す。

          ビルとビルのわずかな隙間から、

          小さく見え隠れする冬の花火。

 

          澄んだ空に映し出される遠い幻想。

          いくつもの小さな花が、咲いては消えて・・・。

          肩に置かれたままの両手から

          コートを通して温もりが伝わる。

          私の肩越しに目を輝かせて花火を見てるかおるを

          首をまわして見つめる。

 

          「ちっちゃいけど、キレイですね」

 

          白い息にまぎれて無邪気に笑窪が浮かぶ。

          嘘のない優しさに鼻の奥が熱くなる。

 

          滲む冬の花はまぶしくて、冷たくて。

 

 

          光が散り終えた空に、また星が輪郭を作り始める。

          言葉もなく寄り添ったまま、空を見上げる。

 

          「あっ」

 

          不意に肩にあった手が離れ、吹き抜ける風によろめく。

          車にあるかおるが持っていた大きな紙袋から

          札のついたままのそれを取り出し私の首にふわりと掛ける。

 

          「メリークリスマス。

           ごめんなさい、

           車降りる前に渡せばよかったのに・・・」

 

          ちょっとくすんだ白のロングマフラー。ぐるぐる巻きにされる私。

          「これクリスマスプレゼント?」

          「はい」

          にこ、と笑うかおる。この笑顔もこの気持ちも

          私の心をじぃん・・・と暖めてくれる。

 

          「・・・あったかいよ。すごい嬉しい・・・」

          「よかったあ・・・」

 

          大事な身体なんですから、なんていいながらはにかむ頬の笑窪が消える。

          どうしたの?

          なんで泣きそうな顔してんの?

 

 

          腕を伸ばし

          ゆっくりと、かおるを抱き寄せる。

          かさばるコートに邪魔されながらも力いっぱい抱きしめる。

 

 

 

          「好きよ」

 

          マフラーに顔を埋めて震えるかおるが、うぐっ・・小さな嗚咽を上げる。

 

          「大好きだから・・・」

          堰を切ったように溢れる涙。

 

          「ずっと好きだから・・・」

          掴まれた腕に鈍く痛みが走る。

 

          「離さないから・・・

          泣くんじゃないよ?・・・ね?」

 

          うん、うん、と小さく頷くかおるの頬を、両手でそっと包み込み優しくすくい上げる。

          閉じたままの瞳から流れる涙を何度も何度もぬぐう。

 

 

 

 

          凍るような冬の空からいつのまにかに星は消え

          白い雪が降り始めていた。








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