Last Holy Night
                                       <4>






          ひんやりとした唇を静かに重ね合う。

          溶かすようにそっと舌が絡まり、熱が流れ込んでくる。

          冷えた頬の感触を、溢れる想いを、口付けたまま確かめ合う。

 

          息をするのを忘れるくらいの

          長いキスで・・・。

 

 

 

          この温もりを失いたくない。

 

          「・・・このまま・・・」

          「ん?」

          「このまま・・・逢えないまま・・・

           フェードアウトしちゃうのかなって思ってた・・・」

 

          「・・・かおるは それでもいいと思ってたの?」

 

          ふるふると首を横に振る。

          そんなわけないよっ

          そんなわけないけど

          そうしなきゃなんないのかってずっと考えてた。

 

          「リカさんじゃなきゃ、やです・・・」

 

          もう何度目の告白だろう。

 

          「離れたくないっ・・・」

          「わかってる・・・馬鹿ね・・・」

 

          もう何度目のキスなのもかわからない。

          不安とか寂しさとかなにもかも全部をこんなにも簡単にリカさんは消してくれる。

          自分の気持ちに嘘をついて無理やり納得しようとしてたあたし。

          ホントに馬鹿だ・・・。

          こんなにも、こんなにも大好きなのに。

 

 

 

 

          「風邪ひいちゃうね。

           行こっか・・・」

          コクリと頷き、肩を抱かれたまま車に戻る。

          屋上に白い息を残して。

 

 

          雪は雨に変わり、濡れた路面にライトが反射して顔を照らし出す。

          泣き腫れた顔をハンカチで押さえながらリカさんの横顔を見つめる。

          バックミラーに映る迷いのない澄んだ瞳は、あたしを見て笑っていた。

 

 

          「少し無理してもいいんじゃない?」

          「えっ?」

          「私達」

 

          きょとんとしたまま言葉が見つからない。

 

          「お互い様でしょ。忙しいのも」

 

          「気使って遠慮するよかずっといい

           ・・・ダメ?」

          「ダメじゃない・・・」

          リカさんがあたしに甘えてくれる。

          あたしもリカさんに甘えたくなる。

          このまま、リカさんのそばにいていいんだよね・・・。

 

 

          サイドボックスに置かれた左手にそっと手を添える。

          ひらりと手を返して指を絡められる。

          強く握り締められたまま車は路地を抜け、もう目の前にはあたしのマンションが見える。

 

          「帰したくないけど」

          誘う瞳がいたずらに笑う。

          「また、今度。ね」

 

          繋いだ手をゆっくりと離してサイドブレーキを引く。

          向かい合うリカさんの顔は、満たされたように穏やかな笑みを浮かべ

          柔らかい視線はあたしを包み込むように見つめてる。

          ふいに思い出したように

          インナーの中に隠れていたネックレスのチェーンをするするとたぐり上げ

          慣れた手つきではずす。

 

          「首、ちょっとこっちきて」

          言われるがままに身体をシートから乗り出しリカさんに近づく。

          細い指にしゃらりと流れるそれを腕を伸ばしあたしの首へ廻す。

          ドキドキが聴こえるんじゃないかってくらいの至近距離に息を止める。

          留め金をとじて両腕を肩に廻したまま、照れて俯き加減のあたしを覗き込むようにして

          頬に チュッ と小さいキス。

 

          「あげる」

 

          トップにはクロスのモチーフと細い細工のリングが小さく揺れる。

 

          「メリークリスマス」

 

 

 

 

 

          互いの想いを確かめ合うキスが一時の離れがたさを募らせる。

 

 

 

          きっと

          忘れられない夜になる。








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