Side.R
あの真っ直ぐな瞳の奥に映る私は
どんな風に見えるのだろうか。
「え? 私のうちに来るんですか?」
「そうよ」
「この後?」
「都合悪い?」
「いえっ全然!」
今夜の私は結構いい感じにお酒が入っていて
何だかいい気分だったから
ちょっと我侭言ってみた。
散らかってるからなぁ、などと言いながら
少し焦ったような笑顔がこぼれる。
そんなこのコをとても愛しく思う。
「そのへんの雑誌とかすぐ片付けますから」
部屋に入るなりばたばたと動き始める。
全然散らかってないじゃない。
一人掛けのソファーにすとんとはまって
ゆっくりと室内を見渡してみる。
落ち着いた色合いのカーテンとインテリア。
壁に絵なんか掛かってる。
ふーん、こーいうの好きなんだ・・・。
「何見てるんですか」
ふっと薄く笑った顔のまま、声のする方へ振り向く。
「何か・・・変ですか?」
「ううん
らしいなあ〜と思ってね」
差し出されたグラスに口を付ける。
「ん。これウーロン」
「明日もお稽古入ってるんですから
もう飲んじゃダメです」
「えー、つまんない」
「つまんなくないです」
ぶつぶつ呟く私を無視したまま
隣の部屋でごそごそしてる。
「テレビとか見てていいですよ」
「何してんの?」
「わっ!」
こっそり近づいて声を掛けたら
びっくりしちゃってる。かわいー。
って、
「これ」
「あ」
テーブルの上にあるブルーのフォトスタンド。
いつのだろ・・・。
眺める暇なく慌ててフォトスタンドを伏せられてしまう。
「何で伏せるの?」
「恥ずかしいからです」
「何で私の写真であんたが恥ずかしいのよっ」
かあっ・・・という音が聞こえるかと思うくらい
顔がみるみる赤く染まってゆく。
後ろ手に隠すように伏せているフォトスタンドを
抱きしめるようにして正面から手を回して取り上げるフリ。
そらす顔を覗き込むようにしてイジワル言ってみる。
「そのカッコイイ人のファンなんでしょ?」
「う・・・」
「好きなんでしょー?
ほれほれ、正直に言いなさい」
「・・・す・・・・き・・です」
「リカさんが・・・・・・好きです・・・」
涙目になった瞳で
真っ直ぐに私を見つめて
搾り出すような声で
そんな風に告白されてしまったら
私は
「り・・・」
キスしちゃった・・・。
驚いて固まったままのあなたに
言い訳するわけでもなく
溢れてくるいとしさを抑えきれない
私は
今にも涙がこぼれそうな目の端に、
赤く染まったままの頬に、
鼻に・・・優しく口付ける。
硬く緊張していた身体から
少しずつ力が抜けていくのがわかる。
私に身をまかせて
潤んだ瞳を静かに閉じる。
二度目のキスは
甘く
優しく
時間が止まったように感じた。
ほの明るいルームライトが照らす部屋
離れるタイミングを逃している私達。
顔を見合わせて照れ笑いする。
「あの・・・」
上目使いで私を見つめたまま
言葉が途切れる。
「なに?」
「あの・・・
酔った勢いで・・・とかじゃ
ない・・・です・・・か・・・?」
ちょっと必死な顔して
恐々確認とっちゃうなんて
・・・なんて可愛いの・・・!
私は思わず噴出しちゃって
けたけた笑いが止まらなくなっちゃって
すごく不思議そうな顔で
どうしていいかわからなくなって焦ってるあなたを
腰に廻したままの腕で、ぐいと引き寄せ
思いっきり抱きしめ直す。
「わっ」
耳に唇寄せて低く囁く
「酔ってないわよ」
「私も好きよ」
三度目のキスは
二度目のそれよりももっと甘くて。
数え切れないほど確認させてあげる。
とろけるようなあなたの笑顔は
私の心を溶かしてゆく。
そして真っ直ぐなその瞳には
素直な私が映っていた。