Side-R
ちらちらとスキをついて腕時計に目をやる。
こんなに打ち合わせが延びちゃうなんて予想してなかったわ。
ここ何週間、
私らしくなく遠慮して
遠くにいるあなたに電話もかけれないでいる。
いつものように気を使って
届くあなたのメールに胸が少しだけきゅっとなる。
(たまにはりかさんの声が聴きたいです。)
なんて、
珍しくあなたからのおねだり。
ちょっとくらい会話する時間くらい、いくらでも作れた。
ケータイ開いて
ちょっとだけ迷って
またこの次でいいや って
そうやって何日も経ってしまってた。
知らないうちに私がどこまで堪えきれるか、自分と競争してた、みたい。
(りかさんの声、聴きたいな。)
やっと負けたと思ったら、いつもは持て余すくらい時間なんてあるってのに
今日に限ってケータイ開くタイミングがつかめない。
あーもうっ。
「ちょっと休憩しましょうか」
はい、と返事してゆっくりと席を立ち
「ちょっと失礼します」
にっこり笑って部屋を出た。
あなたは今、どこにいるの?
移動中?それとも誰かと一緒?
電話、かけてもいいのかしら?
取れるところにいるのかしら?
・・・ホント私らしくない
気持ち小走りになってる私に笑う余裕さえない。
だって声が聴きたい。
私だってあなたの声が聴きたい。
そう思っちゃったらもうたまらなくなって
雑然としたロビィまで出てケータイを耳に押し当てた。
『留守番電話サービスセンターへ接続します』
不意打ちの機械音、戸惑いながらもちょっとだけ考えて、溜息を深呼吸に変え息を吐いた。
勿体つけるような短い発信音が私を焦らす。
「・・・・・りかです。
電話、出れないんならまた掛け直すわ。特に急ぎの用じゃないし。
・・・・・・・留守電やめてメールにしようかと思ったけど、
とりあえずリクエストされてたから・・・。
あのね
私もかおるの声、聴きたい。から、ね。
あっ・・・じゃあ、またねっ」
名前を呼ばれて慌てて切っちゃった。
やだ、何かヘンだったかな
周りもやけにざわついてたし
時間つぶしにかけたように思うかな
それとも
無理矢理時間作ってかけたように思われちゃうかな・・・。
・・・どっちでもいいけど。
ちょっと前までなら留守電に録音なんてメンドくさくてすぐ切ってた。
改まったようで恥ずかしいし。
そんなだったのにね。
誰のせいかしら。
ぽてぽてと廊下を歩きながらビル群の間に滲む遅い夕暮れの風景をぼんやりと眺める。
ほんのりと熱くなった胸がなんとなく心地よい。
今夜は
あなたの「おやすみ」って声を聴いて
眠れるのだろうか。