Side-R


 

 

 

         3度目の発信も留守電へと繋がった。

 

 

 

         なんで?

         何してんのよ、かおるったら

 

         何してんだろ・・・私ったら。

 

 

 

 

 

         あのコ、ああ見えても結構マメで

         メールとか電話とか、ちょっと前までなら手紙とかだって、

         色々気を使って、気ぃ効かせて

         わかったから、って

         いつもあきれたフリして幸せ感じてるのに。

 

         だけど、

         こんなふうに全然反応がなかったりすると

 

         ありえないんだけど

 

         変な事件とかに巻き込まれてるんじゃないかとか

         移動の飛行機とか新幹線とか、どこかで事故にでもあってんじゃないかとか

         ぐるぐるしてきちゃう。

 

         だってそんな時って

         もし万が一そんな事故とかあってたりして

         怪我ちゃったりとか意識不明とか

         最悪・・・自分じゃどうにも連絡とか取れない状況なんかになってたら

         私がそれを知るときって

 

 

         すごくすごく後のほう。遠回りしてくる。

         ううん。たどり着かないかも・・・。

 

 

         馬鹿みたいに弱気になるのは寂しい時に出てくる昔からの悪い癖。

         落ち着かなくて起こしていた背をソファーに深く沈めたと同時に携帯が鳴った。

 

         表示される番号を見て、不安と一緒に身体の力が抜けていった。

 

 

 

 

 

         「ま、そんなことだろうと思ってた」

         『あの・・・もしかして電話・・・何度か掛けてくれたりとか・・・』

         「んーん、も少ししてから掛けようとしてたから」

 

         嘘ばっかり

 

         『あ、そ ですか・・・って今、忙しかったですか?』

 

         残念そうな声

 

         「いや、だいじょぶよ?」

         『あの ね、留守電・・・すっごく嬉しかった』

         「だってアンタ電話出ないんだもん」

         『たまにはいいなって思っちゃった』

         「もうないよ」

         『えっ、そうなの?』

         「そ。」

         『・・・ケチ』

         「ケチぃ?ケチじゃないわよ。

          留守電じゃなくってこうやって直接喋れるほうがいいに決まってるじゃない」

 

         あ、

         言っちゃった。

 

 

         『リカさぁん』

         「・・・なによ?」

         かおるの声がはずんでる。

         『明日からちょっとだけだけど、お休みもらったから

          そっち遊びに行ってもいい?』

         「・・・いいわよ」

         『ホント?』

         「なんなら泊まりに来る?」

         『いいのっ!?』

         「どうぞご遠慮なく。お構いしませんが?」

         『嬉しいっ。だってそれだったら直接だもんね』

         「? なにがよ」

         『リカさんに、おやすみって 言えるのが』

         「なあに、そんなことぉ?」

         そう、たったそれだけのことを

         『顔見ながら、すごく近くで』

         「おやすみって言うだけでいいの?」

         『えっ やだ それだけじゃ』

         「子守唄でも唄ってもらいましょうか」

         『あたしの歌じゃあリカさん眠れなくなっちゃいますよ?』

         「寝れないのはそれだけでじゃないでしょ?」

         『もーうっ!リカさんっ』

         嬉しくてついからかいたくなる。

 

         あなたの声って最強で特別。

         さっきまでのイライラも不安も焦りも全部

         全部帳消しになっちゃうなんて。

 

         「単純よね」

         『え?何?』

         「なんでもない!ホラホラ遠征から帰ってきたばっかなんでしょ?

          疲れてるんだからさっさと寝た寝た」

         『やだ、もうちょっと声聴いていたい』

         「私を散々待たせたバツよ。今日はこれで終わり」

         『そんなぁ・・・って、

          やっぱり待っててくれたんだ。リカさんあたしのこと』

 

         からかってるつもりが遊ばれてるようで

         こんなんじゃダメすぎ。でも嬉しくて

         久しぶりに味わうふわふわの感覚に、も少し酔っていたいんだけど

 

         お楽しみはまた後で。

 

         「ね、だからおやすみ」

         『ね、って・・・』

         「こっち来る日とか決まったらまた電話入れなさいよ。

          なるべく私も時間取れるようにするから」

 

         『うん。すぐ連絡する。

         じゃあ・・・おやすみなさい、リカさん』

 

         この瞬間の幸福に包まれて

 

 

         「おやすみ かおる」

 

 

 

 

 

         おやすみなさい 私の愛しい人。













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