Side-R










          一番に欲しかったおめでとうのメールが届いたのは午前9時21分。

          「HAPPY BIRTHDAY DEAR RIKA-SAN !!」

          たった一言。

          たくさんのメールに埋もれてる、かおるからのメッセージ。



          そりゃね、

          もう子供じゃないんだからさ

          好きな人から一番におめでとうって言ってもらいたいとか

          メールの後に電話くらいかけてくれてもいーんじゃない?とか

          逢いに来てくれとまでは言わないんだからさぁ



          言わないけど・・・

          言わなくても わかるもんじゃないの・・・?







          誕生日にじっと家にいるなんて

          何年振りかしら。





          リビングのテーブルには、届けられたケーキ。

          色目がきれいなのをひとつ開けて置いてみた。

          小さなブーケが転がり、カードもプレゼントもどれ一つ手をつけてないまま。

          とりあえず開けたシャンパンの瓶はもう空っぽで

          グラスに半分だけまだ残ってる液体を

          なんとはなしに見つめながら、ぼんやりとソファーに足を投げ出している。



          揺れる細いキャンドルの灯に視線を移して

          ふっ と小さくあきれたように笑う。



          もう何時間もしないで今日が終わろうとしている。





          いい年して、なにやってんだろわたし。









          寂しいのはキライ。

          だからかおるを好きになった。

          メンドウなのもキライ。

          だからかおるを選んだ。

          「いいですよ」なんて

          嘘のない笑顔でわたしを癒してくれるから

          かおるを愛した。



          我侭すぎ、贅沢すぎ、

          わかってる わかってる

          でも

          今日を特別な日だと

          思ってくれてもいいんじゃないの?





          携帯のバイブに驚いてはっとした。

          表示される着信名に

          なによ、いまさら

          なんて、口に出してつぶやく。



          「・・・もしもし」

          『リカさん?かおるです』

          「なに?」

          『ま、間に合ってよかった〜』

          「なによ」

          『お誕生日おめでとう、リカさんっ』

          「・・・遅いよ」

          『待たせてごめんね、リカさん』

          「待ってないわよ 別に」

          『ホントは直接プレゼント渡したかったんだけど

           もう、お稽古始まっちゃったからそっち行けなかった』

          「わざわざいいわよ。たいしたイベントでもないわ」

          『あたしにとっては大事な日なんですけど?』

          「そのわりには・・・」

          『えっ?』

          「なんでもない」

          『リカさん・・・?』

          「・・・」

          『好き。リカさん』

          「・・・」

          『寂しかった?』

          「・・・ばか」

          『泣いてない?』

          「泣いてないわよ」

          『あっ。

           リカさんちょっと外、空見て』

          「えっ?」

          『ベランダから見えるかな?』

          「何が?」

          『月』



          ベランダに出ると、もう冷たい夜風をひんやりと感じた。

          空を見上げ月を探す。

          「あっ た」

          夜空に浮かぶ、半分だけの月。



          『同じ月、見てるね。あたしたち』

          その声だけで、うっとりとした顔してるのがわかる。

          その一言で、胸が熱くなる。



          「半分しかないわよ」

          『半分じゃないよ。

           だってもう半分をあたし見てるもん』

          「は?」

          『リカさんが見てる月と、あたしが見てる月。

           同じ月だけど半分ずつ。だから二つを合わせて満月』

          「・・・わけわかんないんだけど」

          『ふたりでひとつってこと』

          「・・・」

          『ねえ?』

          「ん?」

          『側にいるような感じ、しない?』






          温かい雫が静かに頬を伝った。



          いつだって欲しいものをくれる。

          それは予告なしで

          とてもシンプルで

          でも一番に欲しいもの。





          だからかおるを愛してる。















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