Side.R


 

 

          おどろいて目を丸くして

          だけど唇は優しく反応して

          ついばむように だけどそのキスはとても熱くて

 

 

 

 

          ふいに思い出して ふっ、と口の端がゆるんだ。

 

 

          タバコの代わりにカバンに常備されるようになった飴が切れて

          ぼんやりしてるアタマ、あの時のかおるの顔が浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          「リカさんってタバコ吸うんだ・・・」

          たしなむ程度にね

          「おいしい?」

          全然 それにそんなに好きじゃない

          「え?それじゃなんで?精神安定剤とか?」

          そんなんじゃないけど ただなんとなく

          「好きじゃないならやめたほうがいいですっ

            タバコってすっごく身体に悪いんですからっ」

          知ってる

          「肌も荒れるし」

          そうね

          「喉にだってよくないし」

          キスすると苦いし

          「そっ・・・!」

 

          急に照れて下を向く。

 

          別にやめてもかまわないけど。

          「やめたらちゃんとアフター・ケアはやってくれるんでしょうね」

 

 

          そう言い終わるか終わらないかで 予告なしにかおるの唇を奪う。

 

 

          「口さびしいから」

          なんて、下手な言い訳。

 

          そんな綺麗な瞳で

          真剣に私を思ってくれてるかおるが

          たまらなく愛しく感じたから。

 

 

          薄く染まる頬に手をあてて首を少し傾げる。

          今触れた唇が柔らかく開く。

 

 

          タバコの・・・代わり?

          「そ。」

          あたしがリカさんの精神安定剤?

          「じゃあないわね」

          じゃあなんですか?

          「タバコ代わりのアメ代わり、ってトコロかな」

 

          だって甘くて美味しいもん。

 

 

          「そんな言ったって、あたしは常備出来ませんからねっ」

          いつも傍にいなさいよ

          「欲しいときにいつでもどこでも手軽にっていうわけにはいかないんですからっ」

          ダメかしら?

          「ダメじゃないけどっ・・・無理ですよう」

 

          驚いて、照れて、嬉しがって、

          怒ったり、困ったり、忙しいわね。

          おかしくて可愛くて、顔がゆるんでしまう。

 

          「あたしだってそう出来るんならって・・・わかってるくせにぃ・・・」

 

          伸ばされた手を繋ぐ。

          そのまま身体ごと引き寄せて、愛しさを込めて抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          「ねえ」

          「はい?」

          「なくなっちゃったから ちょーだい」

          「え?」

          「アメ」

          「あー・・・あたしもガムしかもってない・・・な」

          「ガムじゃ だめ」

          「うん」

 

          覗き込むようにかおるの顔が近づいて

          濃い目につけてたグロスを唇にうつしとられる。

 

          「甘い?」

          「甘い」

          「足りた?」

          「足りない」

 

          くすくす笑いながら何度もキスを繰り返す。

 

          「いつもしてよ」

          「いつも口さびしいんですか?」

          「そうよ」

          「ホントに?」

 

 

          いつだって傍にいてよ。

 

          そういわなくてもわかってるって顔してかおるが微笑んだ。

 

 

 

          安定剤なんかじゃない。だってこんなにドキドキしてる。

 

          でもそれが

          私が私でいられる いちばんのクスリ。












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