Side-R





ねえ 時には 甘えたくなるよ  だって すべてに 強くはなれないから


 

 

 

                    なにもかも上手くいかない日ってあるじゃない?

                    段取りが悪いっていうか、タイミング悪いっていうか、ツイてないっていうか、

                    気をきかせても裏目に出ちゃたり。思い通りにいかないっていうの?

 

                    今日のわたしがソレ。

 

                    そういうときって、どうしても弱気な受け身で構えちゃう。

 

 

                    やんなっちゃいそな気分を撒き散らすように早足で歩く。

                    もつれそうになる足取りはそのせいじゃなくて、

                    浮いちゃいそうな心を必死で抑えているため。

                    情けないまま一日を終わらせるわけにはいかないの。

 

                    だって

 

                    今夜は、“可愛い恋人“が待っている。

 

 

 

 

 

                    エレベーターの中で息整えて、すました顔して部屋に入ると

                    退屈で死にそうって顔してるかおるが、ソファーに伸びたまま声をかける。

 

                    「リカさん、ちーこーくー」

                    「ごめん、仕事がなかなか片付かなくって・・・」

 

                    ついてないわたしは、かおるに対しても弱気モードのまま。

                    こっちから呼び出しておいてこの言い訳ってないよね。

 

                    バッグをベッドに投げ置いて、ソファーの肘掛に腰掛ける。

                    ふてくされたままのかおるを、きゅっとハグして頬にごめんねのキスをしても

                    拗ねた唇は尖ったまま。

 

                    「・・・だいぶ待たせたの、怒ってる?」

                    「すんっ・・・・ごい、待ってた」

                    「仕事たっだんだってば〜〜〜〜」

                    「だって、連絡もくれないし」

                    「だからごめんって言ってるじゃない」

 

                    ずっとそっぽ向いてたかおるの瞳に突然わたしの姿が映る。

                    どきりとする間もないほどの瞬間後

 

                    「許 さ な い」

 

 

                    強く身体を引き寄せられて、転がるようにかおるの膝の上に落ちる。

 

                    「ちょっ・・・」

                    「動かないで。

                     この体勢じゃあリカさんがあぶないって」

                    「やっ・・」

                    首元に顔を埋められて強く唇をあてられる。

                    強引なキスで唇を塞がれる。

                    掴まれた手首、ほどきたくて動かしてももびくともしない。

                    そんな意識、とばすように耳元で囁かれる。

 

                    「許さないって言ったんだけど?」

 

                    声、こないだ逢ったときよりもまた低くなった?

                    強引な展開にドキドキが強くなる。

 

                    軽々と抱きかかえられてベッドにそっと下ろされる。

                    今まで感じたことのない迫力に負けて、されるがままのわたし。

 

 

                    ウェーブがかかったエクステにかおるの手が伸びる。

                    そっと手に取ってキスされる。

                    「いつのまに伸ばしたの?」

                    何でそこでまだ拗ねた口調?

                    「・・・知らないうちにこんなに可愛くなってるし」

                    真顔でそんな言われると、どう答えていいかわからないじゃない

                    「リカさんの全部にあたしの許可が必要なのに」

                    「何無理な事言ってんのよ」

                    「あたしのだから」

 

                    強い瞳がわたしを支配する

 

                    「あたしのリカさんだから」

 

                    捲れたブラウスの裾からかおるの手が滑り込む

 

                    「あたしの見えないところで可愛いカッコとか しないで」

 

                    いつもの拗ねたおねだりとは違う

                    しびれるような深いキスが そう伝えてる

 

 

                    「・・・知らないよ?」

                    「・・・何がよ?」

                    「理性、効かなくなるよ?」

 

                    長い指で前髪をすくわれる。

 

                    「それでも いいの?」

 

 

 

 

                    「・・・・・・いい・・・よ」

 

 

 

 

                    主導権、完全にかおるのもの。

                    “可愛い恋人“、今夜はわたしの担当みたい。

                    それならとことん受け身で構えましょ。

                    ひらきなおりながらかおるの首に手をまわした。

 

                    微笑みを殺してる口元、右眉が少しだけ上がる。

                    ドキドキのなかに少しだけ好奇心が混ざる。

                    めずらしく火照るわたしの頬、気付かないフリして瞳を閉じた。

 

                    めくるめく夜の はじまりの合図。









Song by hiroyuki takami



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