Side-R


 

 

 

          暖色系のルームライトのなかでも、くすむことなく浮かび上がる透き通った肌。

          上から覗き込むような姿勢でベッドに身体半分腰掛けた。

          しばらく見ない間にまた痩せたみたい。

          白い肌、ほっそりとした頬、首筋から肩のラインまでを、そっと指でなぞる。

 

 

          ぽたり と私の髪から雫が落ちる。

 

          その雫がかおるの白い肌にあたり、細かい粒になって散りはじかれる。

          もう一粒、もう一粒も。

          ビーズのようにかおるの肌に散らされる。

 

          それでも起きないのね。

 

 

 

 

 

          東京公演中はたくさん逢おうね!って

          ずいぶん前から予約メールをもらってた。

          そんな言ったって、私もアナタも忙しいんだからムリじゃないの?なんて

          現実的な言葉を飲み込んで、うれしいわとでも言うように

          そうね、と返事してた。

 

          ちょっとだけ期待して待って、

          うんとムリして逢って、

          週3か2、くらいのペースでかおると同じ時間を過ごしてる。

          それでも足りないって、アナタは逢うたびぐずってるけど

          気持ちとカラダとが矛盾してるわよ?

          シャワーを浴びてる間に、すっかり深い眠りにはいられてしまった。

          “どこででも寝れるのが特技“って聴いてたけど、

 

          「こんだけ条件そろってれば、そりゃ気持ちよく眠れるでしょうねえ」

          皮肉まじりのあきれた口調で、おもわず呟いてしまった。

 

          サラサラのシーツと滑らかなブランケットにくるまって

          柔らかな枕に顔を埋めてる、私の眠り姫。

          その小さな寝息に私の呼吸を合わせて、いっときのシアワセな空間に浸る。

 

          愛する恋人の寝顔に、時を忘れて見とれてみる。

          ふふ、と自然に笑みがこぼれる。

          刺激的な日々、忙しく時間に追われて充実感を感じているときもそうだけど

          こんな些細なところに、なんでもないような時間のなかにもシアワセってあるんだって

          最近よく感じるようになった。かおると過ごしてるときなんかは強烈に。

          かおるも、そう感じてくれてるのかしら・・・。

 

          「疲れてるのね・・・

           忙しいのに、馬鹿ね・・・」

          ツン、と鼻を軽くつついてみても、反応まるでなし。

          ・・・もしかして全然感じていないかもしれない・・・この態度。
 




          頬にそっと手を添えてみる。

          まどろみの中の無防備な口元。

          誘われて その唇にやさしいキスをする。

          ふるふると揺れる睫。

          誘われて その瞼にやさしいキスをする。

          鼻をかすめるかおるの甘い匂い。

          頬の手をそのまま後ろへ滑らせ、髪に指を差しいれる。

          と同時に今度は深く唇を重ねた。

 

 

          ぴくり、と伝わった小さな反応を無視して舌を強く絡め取る。

 

          「ぅん・・・っ」

          漏れ出す戸息はまだ夢の中の声のよう。

          薄く目を開けたかと思ったらかおるはまた目を閉じてしまった。

          そのまま力ない手探りで私の首に両手を廻してくる。

          もっと、とでも言うように。

 

 

          「・・・ちゃんと起きてるの?」

          「・・・・・」

          「寝たふりしてんじゃないわよ」

 

          いつのまにか肌蹴かけてたブランケットを剥ぎ取り、

          まだ水分を含んだままの髪でかおるの胸に頬を強くあてた。

 

          「ぃひゃっ・・・」

          「なんて声だしてんの」

          「・・・・・リカさぁん・・・髪濡れたまま・・・」

          「我慢して」

          「あ・・・っ そんなイジワル・・・しな・・いっ」

          口に含む膨らみの先に、いつもより少し強めに歯を立てる。

          一瞬にしてかおるの身体が強張るように反り返る。背中に廻した手に力を込めて

          逃がすものかと抱きしめる。

 

          「リカさ・・・んっ きょお ちょっと ヒドくな・・・いっ」

          「私ほっといて熟睡してたでしょ」

          「寝たふりしてただけだもん」

          「ぐうぐう言ってたのに?」

          「うそっ・・・え、ホントに?」

 

          恥ずかしさに声が裏返ってる。

          それがあんまり可愛くて、思わず噴出してしまった。

 

          「やぁだ もお リカさん・・・っ」

          「ムードもへったくれもないんだから かおるは」

 

          ケラケラとかおるの胸の上で笑う私の頭を

          照れかくしのつもりか、そのままぎゅうっと胸に押し付ける。

 

          「しらないっ もお」

 

 

 

 

          抱きしめられているあいだ中、かおるの胸の鼓動を聴いていた。

          ドキドキが少しだけ落ち着いてきたから、顔を上げて上目遣いでかおるを見る。

          両手で頬を包まれ、まだ照れの残る表情で私をじっと見つめてくる。

          笑いすぎて、幸せすぎて、目の端に滲んでいた涙をぺろりと舐めとられる。

 

          「もっとやさしく して」

 

 

 

 

          夢の続きの現実もまた夢のように

          吸い付くように身体を重ねて、ありったけの愛を互いに与え合う。

          優しいキスがしだいに熱いくちづけに変わり、細い指はわかりきった迷路を辿るように

          深いところへと行き着く。熱を感じながら、押さえきれない声に感じながら、喜びに身体中を震わせる。

          何度も何度も高まりを越えて。



          辿り着く先はいつも、潤んだ瞳でふやけたように微笑むかおるの顔。












          「バイバイのキスは?」

          「そう毎回してやんない」

          「勿体ぶらなくていいじゃん」

          ん、って目を閉じて顔をちょっとだけ前に突き出す。

          右手を伸ばして耳の後ろから首を軽く支える。こんなところでつい出てしまう男役の仕種に

          お互い気付かないふりして、唇の感触に心を浸す。

          唇は離れても名残惜しそうに指で耳を弄ぶ。

          「あ」

          「なによ」

          「ピアス バスルームに置いたまま・・・かも」

          「もお」

          「あっ いい 明日も来るから いいや 置いたまましてて」

          取りに行こうと振り返り離れようとした私の手を素早く捕まえて引き止める。

          「ね いいでしょ・・・?」

          上目使いの視線のまま、引き止めた掌にキスされる。

          そのまままた抱き寄せられて・・・。







          優しい温もりを記憶して

          昨日の続きの今日の続きの明日の夢を待ちわびる。










 

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