Side-R


 

   「明日早いから・・・

    少ししか時間とれなくてもいいなら、いいわよ」

 

   すみません、と受話器の向こうで頭を下げてる姿が目に浮かぶ。

   いいのに。

   本当は嬉しいんだから。

 

 

   予定変更で早めに切り上げられたスケジュール。

   急にぽっかりあいた時間は何をするにも中途半端で、

   おとなしくマンションに直帰してしまった。

   ちょうど稽古が佳境に入ってきて、このところちょっとへろへろ気味だったから

   ゆっくりしようと思ってた矢先の電話。

   それにしても・・・

   体力勝負な仕事だからって、そんなに遠慮しなくていいのに。

   「まだ若いっつーの」

   独り言つぶやいてとりあえず明日の荷物をまとめてみる。

 

 

 

   「すみません、急におしかけちゃって・・・」

   「どおぞ」

   「おじゃましまーす」

   「元気だね」

   「?」

 

   なんなのかな?って表情の笑顔で私を見つめてる。

   笑顔だけ返してリビングに通す。

   ソファーに座らせ、その隣に当たり前のように私も腰を下ろす。

 

   「これ、一緒に食べようと思って・・・」

   小さい白い箱を差し出される。

 

   「今日のお稽古帰りに可愛いケーキ屋さん見つけて・・・」

   はにかみながら上目遣いに見つめられる。

   「お稽古もハードになってきてるし、お疲れなんじゃないかと思って・・・」

   あらら、気を使ってくれたの。

   「疲れてる時には甘いものだーと思って・・・」

   ふーん。

   「リカさんと一緒に食べたいなーと・・・」

 

   「あ り が と」

 

   この一言でぱあっと明るい表情になるあなた。

   たかがケーキひとつ持ってくるのにこんなに緊張しなくていいのに。

 

   私がそうさせてるのかな?

 

   それでも私の隣で楽しげにしている姿を見るとわけもなく心が和む。

   変にオトナぶったり、素直になれない部分の私がゆるゆると解けて

   ふわふわの気分になってゆく。

 

   幸せってこういう感じ?

 

   本当はいつもいつもかまってあげたい。

   劇団でも舞台の上でもプライベートでもどこででも。

   どんなあなたも独り占めしたいから。

   遠慮がちに、だけどいつも唐突に

   私に向かってくるあなたが好き。

 

   「苺のが食べたい」

 

   子供みたいに

   あーん、と口を開けてみる。

   ちょっとびっくりしたように目を丸くして私を見てる。

   けどすぐ慌てたように、ちょっとだけフォークですくって

   少し戸惑いがちに口元へ。

 

   「・・・どう・・ですか?」

   「おいし」

   「ホント?

    よかった〜」

   「少しだけ味見してみる?」

 

   甘さの残る唇で、不意打ちのキス。

   「ね?甘いでしょ?」

 

   さっきよりも目をまん丸にして、みるみる顔が赤く染まるあなたがとても可愛い。

 

   「もっと味見してみる?」

 

 

 

 

   どんな小さなきっかけでもいい。

   あなたが誘ってくれるなら、理由なんかなくてもかまわない。

 

   だってこんなにも愛してる。







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