Side-R


 

 

          「だからあれはやめてくださいって言ったじゃないですかっ」

          もうもう!って両手をばたばたさせながら私に文句つけてくる。

          ・・・可愛い。

 

          「やるにしてももっとさりげな〜くしてくんないと、

           変に思われちゃうかもしんないじゃないですか」

          ダイジョブ、余裕よ、あれくらい。だってみんなやってるじゃない。

          それにそんなに要領悪くないのよ、あなたと違ってリカさんは。

   

          「すっごくはずかしかったんですからねっ」

          「嬉しいくせに」

 

          うっ、と言葉がつまって右眉が上がる。

          「そ、そりゃそうですけど・・・」

          嬉しいの?怒ってるの?それとも困ってるの?

          百面相しながらむにゃむにゃ言ってるあなたを、きうっと優しく抱きしめる。

 

 

 

          ショーのフィナーレナンバー。

          真っ白のスーツは裾がひらひらでステキでしょう?

          招待席で見つめるあなたに、とびきりおっきなウインク投げてみた。

          見せつけたかったの、みんなに。

          こーんなにも大好きな人なのよって。

          周りを気にして笑顔で返すあなたの耳が赤くなってたの気付いたわ。

 

          だって悔しいじゃない。

          同じ舞台に居れないんだからこれくらいしたっていいじゃない。

 

          「とにかく、あんまり投売りしないで下さいね!」

          「いーじゃない減るもんじゃなし」

          「ダメです」

          「何でよ」

          「だっ・・・・」

          口をぱくぱくさせながら視線を逸らしてうつむくあなた。

          「・・・て・・・勿体無い・・・んだもん」

          「は?」

          「あたし以外の人にも見られちゃうじゃないですか

           舞台からだとっ。だから、だめ・・・です」

 

          何々?それって独占欲??

          その発想も尖らせてる口も可愛いじゃないの。

 

          「あと、投げキスもだめです」

          「なんでー?ダメじゃダメよ!

           芝居中でもいっぱいやんなきゃなんないもん」

 

          「ん〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・それは・・・もう

           仕方ないから妥協しますけどぉ」

          なにそれ?なにそれ!そのしょうがないなあって顔は。

          ヤなの?ヤなの?独り占めしたいの?

 

          「わかった。じゃ、タニもやんないでよ」

          「えっ?」

          「あったりまえじゃない。

           私だって勿体無くて他の人になんか見せたくないもん」

          「あたしはやってません」

          「やってるよー!こないだだって見たもん。

           まさか無意識なの?そっちのほうがもっとダメじゃん!」

          「あたしは舞台ではいつもリカさんを意識してるだけでっ

           カッコよくやろうと思ったらついついそうなってるかもしれないけど」

          「ほ〜ら、やってるんじゃん!」

          「と に か く!

           あたしだけのリカさんでないとだめなんですっ!」

 

          こんな至近距離で

          私にぴったりくっついて

          いろいろ言ったって説得力も何もないんじゃない?

 

          でもね、

 

          それってすごく嬉しいわがまま。

          叶えてあげてもいいけど、

          私のわがままもちゃんと聞いてよね。

 

 

          はしゃぐように言いあって

          笑いながら抱きしめあって

          世界中の誰にも見せてあげない

          あなただけに

 
          とびきりのキスをしてあげる。













side-rika