Side-R


 

 

 

             期待と羨望の眼差しを一身に受けながら、にこにこと笑顔を作って椅子に座っている。

             公演も中日を過ぎた頃、2回まわしが連続しててちょっとへろへろ状態だけど、

             ファンの皆様あっての私でございます。

             感謝してます。

             だから、今夜はこんだけの笑顔とサービスで許してね。

 

 

             テーブルに運ばれて積まれた組の皆からのカード。

             いくつか読んで、心がほぐれる。毎回皆マメにやってくれてこれにも感謝。

             あ、タニからだ。

             ふふ、改まってこゆことするのも面白いわね。

             ん?

             指にあたる感触が気になって封を開ける。

 

               『お茶会おめでとうございます。

                会場に行けなくてごめんなさい。

                新人公演の時はいろいろとお世話になりました。

                千秋楽までがんばってリカさんについていきまーす!!



                               たにより。
 

 

 

                P.S.

                よかったら使ってください。

                今日は何時になりますか?

                遅くなってもいいです。待ってます。』

 

 

             ぶっ、とお茶を噴出しそうになりながら、あわてて封を閉じる。

             そう書かれたカードには鍵が貼り付けてあった。

 

             「りかさん、何笑ってるんですか?

              よろしければ組子さん達のメッセージを、いくつか読んでいただけませんか?」

             「やなこった」

             司会者の注文をばっさり断って、にやけそうになる顔を必死でこらえた。

 

             こんな、誰が回収して持ってくかわかんないようなカードに

             意味深なメッセージとか鍵とか入れとくんじゃないっつーの!

 

             びっくり箱みたいなタニのカードを手元にさりげなく置いたままにして

             ちょっとだけドキドキ、ちょっとだけソワソワ、

             落ち着きのない私を笑顔で隠しながら、いつも通りに今夜のお茶会も終わった。

 

 

 

 

 

 

             鍵を挿し込み、ゆっくりとドアを開けて部屋に入る。

 

             「ちょっとぉ、明日も公演あるっつーのに。どうしてくれんのよ」

             「ぅわっ!

              あっ、リカさん!」

 

             不意に声を掛けたのにびっくりして振り向くタニ。

             仁王立ちしてる私の文句なんておかまいなしに駆け寄ってきて勢いよく抱きついてきた。

             「わぁっ」

             「お疲れさまっ。びっくりしたぁ!でも、来てくれて嬉しいっ!

              ちゃんとあたしの部屋の鍵だってわかってくれた?」

             そりゃわかるわよ。あんな書き方してれば。

             しっかし、目なんかキラキラさせちゃってこんな子犬みたいにしっぽふって

             お出迎えされちゃうと・・・・・・・・嬉しいじゃないの。

             だけど、

             「・・・悪いけど今日はすぐ帰るから」

             「えぇーー・・・・・・・つまんない」

             「えー、じゃないの!

              お茶会終わって荷物マンションに放り込んですぐこっち来たんだから

              それ片付けないと。だってもう何時よ。」

             「そっか・・・」

             一気にしゅんとして肩を落とすタニ。

             「そうだよね、リカさんあたしと違って忙しいもんね。

              カード渡した後、絶対ムリな事言っちゃったなーなんて思ったんだけど、

              でももしかしたらなんて期待してて・・・。

              そうじゃなくても電話くらいあるかなって・・・ずっと待ってた」

             俯いたまま私の服の袖を掴むタニの手に力がこもる。

             「でも、結局ムリさせちゃったんだよね・・・。

               ごめんなさい。

              でも・・・顔、見たかったんだ・・・」

             「昼に見てるじゃない」

             「んー、それはそうなんだけど・・・」

 

             ゆっくり二人きりになりたかったんだよね。

             わかってるんだけどちょっとイジワルな返事をしてしまう。

 

 

             忙しいのはお互い様。

             でも、逢いたいって気持ちもお互い様なのよ。

             せっかく凝った渡し方してくれた合鍵。会って直接ありがとうって言いたかった。

             待っててくれる人がいるって、幸せなことだってあらためて感じた。

 

             「この鍵の使用期間は、今日一回限りじゃないんでしょう?」

             えっ、という顔でタニが顔を上げて私を見る。

 

             「明後日、また使わせてもらうわ」

             ぐっと抱き寄せて頬にチュッ、っとキス。

 

             「続きはその時」

 

             かかーっと耳まで真っ赤になって固まってるタニ。

             押しは強いのに爪が甘いんだから。

             まだまだね。

 

             「明日は一回だけど、疲れ残しちゃダメ。

              タニも早く寝な!」

 

             火照りがひかない頬を両手で押さえて私の言葉にコクコクと頷く。

 

 

 

             ほんの10分にも満たない逢瀬。

 

             だけど、これだけで満たされてゆく私。

             すごく嬉しそうに笑窪を浮かべてるあなた。

 

 

             今はまだ、それだけでいい。















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