Side-R
「見てますよ!いっつも袖から。
あのキスするところ」
「キスするとこ?キスしたいの?」
「もう!ネイサン!!してるじゃない!!」
紙面にどこまで載るのかしら。
何気に交わした対談ページのタニのコメントに
ああ、そういえば公演始まってから全然ご無沙汰してたなあと
急かされて慌しい毎日におざなりになってた私達にとふと気が付いた。
そして、急に恋しくなった。
終演後だいぶ時間が経った頃、忘れ物を思い出して楽屋に戻るハメになった。
まだ誰か居るかしら?
何気に見上げた着版を見たらひとつだけ返ってない札がある。
ロッカールームに向かうと人影がドア越しに見えた。
気配を消したまま中に入り後ろ手に鍵を閉め
荷物をまとめて肩に掛けたまま立っている先客に後ろから不意に声を掛けた。
「まだ居たの」
振り向きざま一瞬びっくりした顔をしたタニが、ふにゃあと笑窪を浮かべて笑った。
「どうしたんですかあ?リカさん
もうー、びっくりしたあ」
「忘れ物 したの」
「そうなんですか」
「ちょうどよかった。アンタの顔見て
もひとつ忘れてたの思い出したわ」
「え?」
「さっきのタニのリクエスト」
「さっきのリクエストって?
何かあたし言いましたっけ?」
「・・・・・・言ったことに責任もてよな・・・」
少し怒ったようなフリをしてずいずいと近づいて
その勢いに思わず後ずさりしてしてるタニの肩に掛かったバッグのベルトをぐい、と引っ張って引き寄せ
半開きの唇を唇で塞いだ。
「んん・・・っ」
いきなりのキスに目を閉じるタイミングを逃してるタニ、
そんなのかまわず舌を絡めていく。
「・・・んー・・ぷはっ」
目を丸くしたまま驚いた顔して、頬がみるみる赤くなっていく。
「どおしたんですかっイキナリー」
「何よ。なんかモンクあんの?」
「誰かに見られたらヤバイじゃないですか」
「大丈夫。もうアンタしか残ってないって」
「でもっ」
「だってガマン出来ない」
「なっ」
「タニが挑発したんじゃん」
「はあ?してませんでば」
「し た。
キスしたいって言ってたじゃない」
思い出したようにあっ、と小さく反応して目をそらされる。
「キスしたい、じゃなくて、いつもキスシーン見てるってだけでっ単なる演技の感想でっ
そんな、挑発とかリクエストとかうらやましいとかそんなんじゃなくてっ」
「ふーん。あ、そ」
ぱっ、と手を離してタニから身体を離した。
「タニはいいんだ。ずっとキスおあずけにしてても」
「いいとか悪いとかも言ってないですっ」
「わたしはやだ。キスしたいときはキスしたいの」
「そんな・・・
そんなこと言われたら・・・・意味なくなっちゃうじゃないですか・・・」
「意味って?」
「・・・・・・してる・・・」
「え?何よ」
「あたしだって甘えたいの我慢してる意味!」
涙目で言い切ったタニに思わずわたしの目も丸くなる。
「すっごい我慢してたのに、楽までは迷惑とかかけないようにって思ってたのに
おかまいなしだなんて・・・そんなのないですよ」
バッグが床に落ちたと同時に、タニが私に抱きついた。
「リカさん、わがままです・・・」
「アンタも・・・だいぶアマノジャクだよ・・・」
ぎゅう、と抱きしめ返して、久しぶりの温もりを感じあう。
「もう知らない。もう、止めらんなくなっちゃったじゃないですか」
「・・・いいよ。止めなくても」
「誰か来ちゃったら・・・?」
「誰も来ないよ」
言葉をさえぎるように唇を合わせ、溜め息が漏れるくらい深いキスを繰り返す。
嬉しいのドキドキと、いつもは絶対にありえない場所での秘密の行為のドキドキと
混ざり合ってふたりして落ち着かないままのキス。
無理矢理気持ちを殺してたタニ。
こらえきれなくて想いに正直に行動しちゃったわたし。
今更、ちょっとだけ恥ずかしい。
でも、好きなんだからしょうがない。
それに
こんなに気持ちいいんだから いっか。