本編不在の予告小説
「背徳のシナリオ」
私立高校の英語科担当教師 / りか
私立高校に通う男子生徒 / 大和
出逢った時から
まるで子犬のように懐いてくるなとは思ってた。
やんちゃな弟を見るような感覚で、
もしかしたら少しだけ贔屓目に世話を焼いていたかもしれない。
屈託なく話しかけてくる彼の笑顔がまぶしかった。
何の変化もなく過ぎてゆく決められた時間割りの中での生活。
いつの頃からかその風景の中で
彼の輪郭だけがくっきりと浮かんで見えてた。
「ちゃんと先生って呼びなさい」
「だってりかちゃんって名前、可愛いじゃん」
「可愛い可愛くないとか、そおいう問題じゃないの」
「俺がそう呼びたいの!」
「だーめ。大和君にだけ特別は許されないのよ?」
「だって俺、りかちゃんの特別になりたいから」
「えっ?」
胸がどきりとした。
「俺、好きだよ。りかちゃんのこと」
「ちょっと・・・」
「先生とか生徒とか関係なくて、俺」
「何言って・・・」
「好きなんだ」
気付かないふりしてた。
絶対ないと思ってた
教師と生徒なんて。
チープなくせにハイリスク
範疇外もいいところで
あるはずがないと気にも留めていなかった。
いや
あってはならないと言い聞かせていた。
どんな言葉を返しても、見透かされている気がして
逸らせない視線。時が止まったみたいに動けない。
この真っ直ぐな瞳が、冗談ではないと私に投げかける。
「本気・・・だよ?」
捕らえられたのは、だれ?
暮れはじめた夏の終わり
資料室が並ぶ階へと続く階段に、音もなく佇むふたり。
窓のすぐ外にあるグラウンドの喧騒が、ずっと遠くの音のように聞こえる。
胸に抱いていたテキストが腕からすり抜けて落ちた。
はっと我にかえり、それへ手を伸ばす
言葉もなくその手に重ねられる手
あきらめたように目を伏せたまま呟いた。
「後悔しないなら・・・いいわよ」
それは自分への問いかけ。
「しない」
私の替わりにそう答える彼。
ふっ と笑って顔をあげた。
「そうね」
下校を促す今日の終わりのチャイムが、私達に始まりの合図を告げる。
壊れたように鳴り響く音の中で交わす初めての口づけは
羽に触れたように微かで
仄かな温もりが、戒めるように現実だと伝える。
モノクロの学び舎の
背徳のふたり