夢見るナタリー


 

 

 

 

             何処をどうやって歩いてきたのか

             ここが何処なのか

             わからないままただ足だけが前へと進む。

             ボロボロに疲れ果てて、

             何故、何の為に、ここにいるのかも忘れてしまった。

             そう・・・自分が誰なのかすらも・・・。

 

             不安なまま、焦りはやる気持ちが喉の渇きを強くする。息があがる。

             夜の闇の中、もがくように手探りでただひたすらに前へと進む。

             すがりたい何かを求めて。

 

             月明かりに反射する水面のわずかな光が目に止まった。

             もつれそうになる脚でその光を目指す。

 

             急に開けた視界、息を飲むほどの景色が目の前に広がる。

 

 

             月明かりに柔らかく揺らめく水面。その手前一面に広がる白百合。

             青白く浮かぶ幻想的で美しいその光景に言葉を無くす。

             夢でも見ているのか?それともここは天国かどこかなのか・・・?

             夢なら、いやもうそうでなくてもいいからこのまま倒れこんでしまいたい。

 

 

 

        泉のほとりに百合を敷き詰めて

        身を横たえる貴女

 

        青白い月の光を浴びれば 妖しく輝く

 

 

 

             女神が いた。

 

 

 

 

 

        ナタリー 僕は屈みこんで

        額にくちづける

        ナタリー 貴女は目覚めて

        不思議な目で見るよ

 

 

             開かれた瞳。

             瞬間、心が奪われた。

 

             アナタ ハ ダアレ?

             とでも言うように首を傾げられ覗き込まれる。

             薄く開いた唇から零れる音はなく。

             深く、見透かされるような瞳でただ見つめられる。

 

             ただ見つめられ・・・。

 

 

 

 

        妖精のような羽をひろげると 貴女は泉に僕を誘うのさ

 

        目に見えぬ糸に操られるまま 僕は抱かれてた

        夢見るナタリー

 

 

 

 

 

             映る月を揺らし、冷たい泉に痺れた足を浸す。

             静寂に包まれた世界に音の波紋を広げる。

             水面にひらりと舞い降りるように泉に溶け込む女神。

             たっぷりとしたゆるく流れる金色の髪、月光を浴びて真珠のように淡く光る肌、

             長い睫の黒い瞳、花の蕾みのような唇、神聖なまでのシルエット。

             細い腕が伸びる。

 

             裂けて破れぼろ布になった服を剥がし、その白い手で水をすくい焼けつく身体を潤すように流す。

             瞳を伏せてうっすらと微笑みをたたえたまま、まるで何かの儀式のように

             そっとそっとその動作を繰り返す。

             触れる手の柔らかさ、伝わるほのかな温もりのあまりの心地よさに身体の芯が震えだす。

             解放されるような感覚が全身を包んでゆく。

 

 

 

 

        水に濡れた髪 肌に張り付いたシルクが悩ましいよ

 

 

             流れるような曲線が浮かび上がる。透ける肌は纏う布よりもなめらかで白い。

 

 

        まるで貝殻の上に立っている神話のヴィーナス

 

 

             ずっと求めていたような、遠い昔にどこかで見たような懐かしさに酔い

             傷の残る胸を撫でる白い手に手を重ねた。

 

 

 

        ナタリー 

        僕はひざまづいてその手にキスをする

 

 

             驚きもせず、瞬きもせず、

             潤んだ瞳で極上の微笑みを向ける。

 

 

 

        ナタリー 魔法の瞳に心を縛られて

 

 

 

 

 

 

 

             昔、
 

             夢に描いていた理想郷があった。

             この刃の欠けた剣、錆付いた鎧、僅かに残る紋章が

             かすかに浮かぶ記憶へと繋ぐもの。

             けれど

             それが何を意味するのか、どんな過去を生きてきたのか

             もう何もかも捨ててしまってもかまわない。

 

             混乱の世界の中で

             何もかもなくし、求め彷徨い辿りついた

 

             一筋の光のもとへ

 

             今

 

 

 

 

 

 

        妖精のような貴女に抱かれて水の底にある楽園の国へ

        空は水鏡、名も知らぬ鳥が肩でさえずるよ

        夢見るナタリー

 

 

 

 

 

             言葉もいらない。

 

             もう何もいらない。

 

             優しく包まれるこの腕の中で

             静かに

             眠りたい。

 

 

 

 

 

 

 

        目に見えぬ糸に操られるまま

        僕は抱かれてた

 

        夢見るナタリー









song by MAKOTO SEKIGUCHI



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