2022.8.25更新 
       
       
  詩は爆発だ、憤怒だ、絶叫だ、衝撃だ 詩は号泣だ、悔恨だ、歓喜だ、感動だ 詩は武器だ、刀剣だ、爆弾だ、防御だ 詩は握手だ、連帯だ、友愛だ、和解だ 詩は反骨だ、批評だ、不屈だ、非転向だ 詩は故郷だ、夕焼だ、赤蜻蛉だ、慕情だ 詩は若葉だ、朝露だ、五月だ、生命だ 詩は接吻だ、抱擁だ、愛撫だ、官能だ 詩は世界だ、海原だ、蒼穹だ、実存だ 詩は破滅だ、暗黒だ、虚無だ、絶望だ 詩は怪獣だ、怪物だ、獰猛だ、脅威だ 詩は絶壁だ、沈黙だ、孤高だ、屹立だ 詩は別離だ、流浪だ、彷徨だ、寂寥だ 詩は革命だ、謀反だ、打倒だ、下剋上だ 詩は寺院だ、静謐だ、荘厳だ、不可侵だ 詩は森林だ、迷宮だ、深遠だ、無辺だ 詩は清流だ、純粋だ、透明だ、清涼だ 詩は枯野だ、焼跡だ、廃墟だ、疼痛だ 詩は火炎だ、燃焼だ、噴火だ、熱情だ 詩は疾走だ、饒舌だ、閃光だ、瞬発だ   英田はるかにとって詩とは何か    
   詩は憂鬱だ、挫折だ、失意だ、無情だ 詩は血潮だ、大胆だ、野心だ、躍動だ 詩は墓地だ、骸骨だ、亡霊だ、怨念だ 詩は怒涛だ、轟音だ、時化だ、破壊だ 詩は前衛だ、逸脱だ、転覆だ、尖鋭だ 詩は道化だ、爆笑だ、洒落だ、痛快だ 詩は戦慄だ、苛酷だ、極限だ、直接性だ 詩は敗北だ、屈辱だ、惨禍だ、不条理だ そして、なによりも 詩は遊戯だ、解放だ、破天荒だ、快楽だ    
       
       
  三十七年ぶりの突然の帰郷 そこで年老いた男が目にしたのは すっかり新しくなったまち  悪臭を放っていたどぶ川の周りが親水公園に 田んぼだった所が次々と新興住宅地に  ユニクロ TSUTAYA ダイソー…… 都会にあるものはたいていそろっている 県下一の商業施設も連日大賑わいで かつての農村は洗練されたまちに変貌  そのかわり 洟たれ小僧が追いかけた 夕焼け小焼けの赤とんぼが どこかに消えてしまった そんな夕景に 男は戸惑う 喜んでいいのか 悲しむべきなのか   ある男の帰郷    
  粉砕されたノスタルジー  男がぶくぶくと醜くなっている間に 男をあざ笑うかのように ふるさとはぐんぐん若返った  一度は棄てたはずのド田舎ではなかったのか それなのにのこのこと今頃帰ってきたのか 山から逆襲のような一陣の風  〈あゝ おまへはなにをしてきたのだと…… 吹き来る風が私に云ふ〉  中也の絶叫が男の胸をしめつける      
       
       
   オータニサンがすごいことをした日 地球の反対側で ボクはその日も平凡な一日を生きていました いつものように 朝6時に起きて 朝ご飯を食べて 朝刊に目を通して うんこして 会社に行って 仕事して 寄り道して 缶コーヒー飲んで 文庫本読んで 夕ご飯を食べて ニュースを観て オータニサンのことを知って 詩を書いています そして お風呂に入って おならして オータニサンがすごいことをした日、ボクは     
   あとは寝るだけです オータニサンはすごい 投げてもすごい打ってもすごい でも ボクだってすごいんですよ 誰も言ってくれないので自分で言います おねーちゃんとも遊ばず お酒も飲まず賭け事もせず ヒンコーホーセイを絵にかいたような暮らし これをほぼ毎日つづけているんです どうだすごいでしょう ボクって  
       
       
   詩人は大ウソつきだ 太陽が笑うはずないのに 太陽が笑っているなんて 大真面目な顔して言うんだもの  そうだよ 詩人は大ウソつきだよ ウソつきの名人なんだ 毎日言葉の工場に籠って ああでもない こうでもない 書いては消して 消しては書いて ありもしないことを さもあるかのように ウソがウソっぽく見えないように 入念に言葉を選んで ウソを練り上げているんだ  でも 詩人は大ウソつきだ    
   それは美しいウソ それは楽しいウソ  何を書けば喜んでくれるのかな どう書けば笑ってくれるのかな 詩人の頭の中は いつもそのことで一杯なんだ  ほら、太陽が笑っているよ 心がホカホカしてくるだろう    
       
       
   棒読みだな ―あかんやろ(僕、フルスイング) 他人事みたい ―なめとんか(俺、フルスイング) はぐらかしてばっかり ―ふざけないでよね(私、フルスイング)  フルスイングしたい気持ちなんてわかってほしくないけど まつりごとなどこれっぽっちも関心ないけど 心の底から湧き上がってくるこの怒りはなんだ  怒りの塊をバットで思いっきり叩き モヤモヤした空を真っ二つに切り裂きたい  切り裂いた空を突き抜けて 怒りの塊よ 届け はるか永田町のど真ん中へ 強烈なバックスクリーン3連発を食らわせて ちんたらちんたらしているセンセイたちを目覚めさせてやる その野望にかきたてられて僕も俺も私もフルスイング 〈否(いな)〉のちからでフルスイング    
   〈否〉のちからでフルスイングするんだ  しかしながら 私達はわきまえておりますので 総合的俯瞰的に判断した結果 フルスイングすることは差し控えさせていただきます―― な〜んてどこかで聞いたことのある台詞を期待していたら  大臣席でふんぞり返っているそこのセンセイ 大間違いだよ   今後共私達は〈否〉のちからでフルスイングする所存であり 永田町に怒りの塊をぶちこむことに吝かではありません、よ    
       
       
   涙でしか表わせない悲しみがある 涙でしか分かち合えない喜びがある 涙でしか味わえない悔しさがある 涙でしか視えない世界がある そして 涙でしかわかりあえない涙がある  涙は 至上の言葉だ 頬を伝うひとしずくひとしずくは 言語にならない詩だ 文字にできない詩だ  涙  
       
       
  サイタ サイタ カコサイタ 来る日も来る日も 大騒ぎ 過去咲いた 過去が咲いた? そんなアホな と鼻糞を穿っていたら 今度は コウシン コウシン とうるさい 何が行進 過去が行進? ホンマかいな と外に出たら 沿道はすでに黒山のひとだかりでメインストリートを占拠して過去 が咲き誇り二本の脚で後ろ向きに一糸乱れずに行進しているのを一 同は物珍し気に眺めていたが過去にはそれぞれ見物人の名前が刻ま   カコサイタ。コウシン    
   れていて自分の過去が白日の下に晒されるやいなや慌てふためく人、 目をそらす人、ベールを掛けてもみ消そうとする人、郷愁をそそら れる人、自慢し始める人、赤面する人、感涙にむせぶ人、奥さんに 睨まれる人、子供に軽蔑される人、後ろ指をさされる人たちの怒号 やらすすり泣きやら金切声やら悲鳴やら嘲笑やらで沿道はとんでも ないことになってしまった だけど 過去は立ち止まらず 一切を無視して 冷然と遠ざかっていく   (注『月間ココア共和国』2021年3月号電子版佳作集Tに掲載)    
   
       
   父が横たわっている 魂の抜けた体で 死の床に就いている  しわだらけの顔は びくともしないが 見事なほど安らかだ  若い頃は筋肉隆々だった肉体も 長年の車いす生活で すっかりやせ細り 骨に薄っぺらい皮と肉がくっついているだけ  父よ 九十一年間お疲れさまでした 決して平たんな人生ではなかったですよね 胸が張り裂けそうな悲しいこともありました それでもつらい顔ひとつ見せず 黙々と働き続けていました 人生とは何ごともただ引き受けることだと 死の床で    
   その背中が語っていました その強さ潔さを僕は尊敬しています  そして今までありがとう 心配ばかりかけた不肖息子の僕を 忍耐強く育て見守ってくれてありがとう ご期待には沿えなかったかもしれませんが なんとか人並みの人生が送れております あなたからいただいた御恩は 一生かけてもお返しできるようなものではありません その感謝の気持ちも伝えられず 今になってしか言えない僕を赦してください    
   
       
     
 
       
   取り壊されてはじめて その存在が浮かび上がってくるビルのように 失ってはじめて いとおしさが増してくるものがある  死がもたらすのは 圧倒的な生の面影  死ぬことは 生きていた証 もう声を発することもない口 二度と見開かれることのない眼 しかし その口が語ってきた言葉が 今鮮やかに聞こえてくる その眼が発した眼差しが 今でも優しく迫ってくる  骨だけになったからといって 関係が終わったわけではない  死のもたらすもの  
  死ぬことで 新たな絆が結ばれ 心の中で生き続ける  もっと語りたかったにちがいない もっと見ていたかったにちがいない それが何であるか 残された者は 問い続けていかねばならない 永遠の宿題のように      
   
       
   太郎は巨大な船の中で働いている。だからといって彼が船乗り だというわけではない。つまり比喩としての船なのだ。そこで 彼は毎日同じ作業を繰り返している。彼がいなくなっても次の 日には誰か別の人ができる簡単な仕事である。だがこの仕事は 船の航行に何らかの役に立っているだという物語が彼の心を支 えている。ところが彼はある日体の中に小さな穴が空いている のに気がついた。別に痛いとか血が出ているとかそんなことは 全くないのだが、気になって仕方がない。そこで細君に見ても らった。だがどこにもそんな穴は見当たらないという。仲のい い同僚にもこっそり話してみたが、「あほちゃう」の一言で片 づけられてしまった。どうやらこの穴は彼以外の人間には見え ないらしい。よく観察していると毎日少しずつだが穴は肥大し ている。彼は必死でその穴を埋めようとした。〈生き甲斐〉と か〈夢〉とか〈希望〉とかそんな欠片をかき集めて詰め込んで みた。しかしことごとく飲み込まれてしまった。穴は彼を侵食 し始めた。あがいてももがいてもそれから逃れることはできな い。彼は一日も休むことなくその単調な仕事を続けているが、 内心は自分が空っぽの穴になってしまうのではないかと怯えて いた。そしてある日ついに彼は自分が〈無〉になってしまった ことに気がついた。細君に話しかけたのに反応がなかった。職 穴  
  場で挨拶しても誰も気づいてくれない。彼の仕事場には全く知 らない人がいて彼が昨日までしていた作業を何事もなかったか のようにこなしている。彼は絶叫して外に走り出た。しかし太 陽はいつもと変わらず美しく輝いているだけだった。  次郎も巨大な船の中で働いている。だからといって彼が船乗り だというわけではない。繰り返すが比喩としての船なのだ。そ こで彼は一流の技術者として働いている。彼の代わりをできる 者は誰もいない。彼がいないとたちまち船は動けなくなってし まう。巨大な船を動かしているという自負が彼の心を支えてい る。だが彼は船が巨大な穴に包まれているのに気がついた。親 しい同僚にこっそり話してみたが、「あほちゃう」と言ってあ しらわれてしまった。細君にも信じてもらえなかった。どうや らこの穴も彼にしか見えないようだ。穴に包まれているからと いって船の航行に支障があるわけではない。船長はじめ船のリ ーダーたちは昨日と変わらぬ明日が来ると信じ切っている。同 僚たちもいつものように残業をし、休憩時間には野球の話や恋 人の話で盛り上がっている。だからしばらくは放っておいた。 しかしよく観察していると毎日少しずつだが穴は収縮している。 彼は必死でその穴を壊そうとした。〈倒産〉とか〈失業〉とか      
  〈リストラ〉とかそんな礫を拾って次々に投げつけてみた。し かしことごとく跳ね返されてしまった。その穴はいつかきっと 船を飲み込むにちがいない。彼は恐ろしくなって仕事が手につ かなくなった。そしてある日ついに彼は船が消えて自分だけが 巨大な穴の中に閉じ込められているのに気がついた。穴の中は ただの空白がどこまでも広がっているだけだ。彼は〈無〉の中 に取り残されたのだ。そしてどんなにもがいてもその穴から抜 け出すことができないとわかった。船と同じように自分もきっ とこの穴に飲み込まれてしまうにちがいない。彼は恐怖に打ち 震えながら無為の磔に耐えている。      
   
       
  革命的な夜明けが 前夜祭のように きみの朝に華々しくその姿を現すまで 蒼穹を疾駆する言葉で きみはきみの叙情を組織するのだ  青空に浮遊している無数の言葉 その中で一瞬の煌めきを放つ流れ星のような言葉を きみの魂が確実にとらえ 自分のものにしたとき きみの叙情はひとつの新しい武器となり 言葉をぶち壊す 常識を叩きのめす 人々を震撼させる そして 世界を一変させるのだ  人々が昼と呼んでいた闇を きみが夜と呼ばれる光に変えてやるのだ     きみはきみの叙情を組織するのだ  
  革命的な夜明けが 前夜祭のように きみの朝に華々しくその姿を現すまで 蒼穹を疾駆する言葉で きみはきみの叙情を組織するのだ  青空に浮遊している無数の言葉 その中で一瞬の煌めきを放つ流れ星のような言葉を きみの魂が確実にとらえ 自分のものにしたとき きみの叙情はひとつの新しい武器となり 言葉をぶち壊す 常識を叩きのめす 人々を震撼させる そして 世界を一変させるのだ  人々が昼と呼んでいた闇を きみが夜と呼ばれる光に変えてやるのだ       
   
       
  わたしはほんとうにひとのかたちをしたにんげんなのか かがみをみればたしかにひとのかたちがうつっている じめんにうつるかげもたしかにひとのかたちをしている でもそれだけでほんとうににんげんだといえるのだろうか それだけでにんげんとなのっていいのだろうか にんげんってなに にんげんであることってどういうこと さるやたぬきとどうちがうのか わたしのなかになにがあればにんげんなのか こころというものがあるかどうかがもんだいなのか でもよのなかにわたしとおなじにんげんはひとりもいない かたちがみんなちがっているようにこころだっておなじではない おなじにんげんなのにそうぞうできないことをするひとがいる おなじにんげんなのにすごいことをやってのけるひとがいる みんなかってにじぶんのことをにんげんとおもいこんでいるだけで じつはひとのかたちをしたへんないきものではないのか そうだ そうなんだ わたしはひとのかたちをしているけどへんないきものなのだ にんげんなんかではない    ひとのかたちをしたへんないきもの  
  にんげんをなのるしかくなんかない このちきゅうじょうにいっぴきしかいないいきものなのだ だれもおもいつかないへんなことをそうぞうし だれにもまねできないへんなことばをおもいつき ひとりでにやにやするのがだいすきで そんなじぶんにめそめそするのもきらいではなく ときにはおとこにもなりときにはおんなにもなり それでいておんなでもなくおとこでもなく ときどきあくまにもなりときどきてんしにもなり それでいててんしでもなくあくまでもなく ほんとうにどうしようもなくへんないきものなのだ      
   
       
  言葉を吐き出すのが得意な男が 街頭で言葉をばらまいていた 通りすがりの僕にも 言葉をやると言ったので 立派な文字で飾られているやつを ひとつだけもらってきた  言葉をテーブルの上に置いた リンゴのとなりに ちょこんと並べてみた だけど 言葉は外見に似合わず無口だ リンゴに負けないほど 何も語らない  言葉はそこでひっそりとしている リンゴと比べると 存在感はきわめて希薄だ だけど 言葉はなぜかチラ見したくなる   言葉とリンゴ  
  リンゴとちがって どこか神秘的だ  言葉が秘めているもの それが知りたくて  言葉の皮をむいてみる リンゴの皮みたいに せっせせっせとむいていった 必ず芯があるはずだと あの男の魂みたいなものが詰まっているはずだと だけど ひと皮むいただけで あっさりと馬脚を現した リンゴとちがって 言葉の中は空っぽだった 言葉はただ一枚の皮にすぎなかった  頭にきて 僕はリンゴにかじりついた じゅわっとした苦みが口中に広がる     
  これがリンゴだ 紛れもなくリンゴの味だ 安物の言葉とちがって きわめて明晰だ      
   
       
  そこには長い真っ白な壁がそびえたっている 壁の向こう側に何があるのか誰も知らない 壁がどこまで続いているのか誰も知らない  壁があれば登りたくなる だが今までにその頂に到達したものはいない (征服意欲を断念させるに足る急峻さ) 壁があれば壊したくなる だが穴を掘って無事に生還したものはいない (脱出を試みる者には容赦ない冷酷さ) 壁があれば塗りたくなる だがどんな素晴らしい絵も一瞬にして消える (どんな絵やも文字も拒否する純潔さ)  だから少年は壁にゴムボールをぶつけて遊ぶしかない だから恋人達は壁にもたれてキスするしかない だから酔っぱらいは壁に立小便をぶっかけるしかない だから失恋した少女は壁に向かって泣くしかない だから左遷の憂き目にあった男は壁をドンドン叩くしかない     壁  
  壁があるから我が国は永久に安全なのだ と、為政者は内心ほくそ笑んでいる 壁があるからここに骨を埋めるしかないのだ と、住民たちはすっかり諦めている 壁があるから想像力がかきたてられるのだ と、詩人は言葉で逆境に挑んでいる  だが、その壁を誰がいつ何のために作ったのか知る者はいない 子は父に、父はその父に、その父はまたその父に、そしてまた… と、代々その来歴を問い続けてきたが ―生マレタ時カラソコニアッタ― 残念ながらそれが唯一の、そして精一杯の回答であった またいかなる古文書を調べても記載されていない  ただただ真っ白な高く長い壁―― 目に見える絶望のようにそびえたつ壁 ひとの野望を木っ端みじんに打ち砕く壁 そこにあるだけなのに ただそこにあるだけなのに      
       
     
 
●英田はるか(1957年、徳島県生まれ、大阪府八尾市在住、『ペガサス』同人、既刊詩集『自滅時へのモノローグ』) 
 
 
 
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