2004年関東スナイプ外伝:マストの作り方
えー、毎度ばかばかしい絵日記におつきあいいただきまして、ありがたくお礼を申し上げます。
昔から「地震かみなり火事おやじ」なんてェ事を申しますが、アタシらヨット乗りにとって一番おっかないのは
何と言っても例のかみなりです。
今年は多ゥござんしたねェ、ゴロゴロゴロゴロ、ほとんど毎日鳴ってますから、
「ゴロ」と「ゴロ」の合間に急いで出艇しないことには練習なんてできャァしません。
こういうのを「ゴロ合いを見る」ってェんでしょうか・・・。
さて、前回の突風でフネのマストが曲がってしまいました大工のKobantoが、家でファンタジーノベルズを読んでいますってェと、
♪ミミソー、ミミーソー♪ミソドーシー、ララーソー♪
てな具合にケイタイが鳴りました。
小「ハイ、こばんとです。あ、親方、何の御用で?」
大「この間あつらえといたマストが届いたってェから、今度の日曜はマストをこしらえようってェ寸法だ。9時集合だぜィ。」
小「がってんだィ。」
というわけで、今度の日曜が一日中整備だと分かったKobantoは、その日は絶対に吹かないでほしいと思いながら、
愛用のノミとカンナの手入れをするのでした。そして、福岡県出身のはずの大番頭さんが、
何でいきなり江戸っ子になっちゃったのだろうかと不思議に思ったりもするのでした。
日曜日、大番頭親方とKobantoが小田急SCのカフェに行くと、何やら長いパイプのような物が床に置いてあります。
小「親方、これがマストですか?」
大「あたぼうよ。ただし、スプレッダーも何もついてねェ、素管てェ名前の状態だ。」
小「ジブハリやステイ用の穴は開いてるようですね。」
大「ウム。そういう穴は、言ってみれば出口なわけだから、イグジットって言うんだ。」
小「え?出口ならデグジットじゃ・・」(ゴッツン!)
とマアこんな調子で、ヘンな江戸っ子の大番頭親方と大工のKobantoは、倉庫の横の陽当たりのいい(8月です)作業場で、
ポカリスエットを飲みながら、マスト作りの作業を始めました。
マストの作り方:その1
古い方のマストと並べてみて、シアー・ラインのマークを基準に、上下のブラックバンドの位置を確認する。
大「フム、ブラックバンドの位置は、どうやら同じようだ。」
小「でも、バンドの色がブラックじゃありませんよ。」
大「そいつァな、目立つ色ならいいってきまりがあるんだ。」
小「なるほど。さすが親方、よくご存知で。」
大「ごぞんぢってほどのモンじゃねエが、このくれェは知ってるぜ。」
親方の江戸弁も、だんだん板について来ているようです。
マストの作り方:その2
ジブハリをマストに引っ掛ける穴のフチに当てる部品(シーブ)とスプレッダーを、古いマストから外す。
これはリベットをドリルでもみこんで取り外しました。
マストの作り方:その3
ジブハリのシーブを新しいマストに取り付ける。
ネジでとめるわけですが、ネジ穴に溝が彫ってありませんので、ネジきり(タップ立て)という事をします。
ネジ穴が大きすぎた所がありましたので、そこはリベットでとめました。
マストの作り方:その4
マスト・ヒールをマストの下にはめ込む。
マスト・ヒールというのは、マストとフネのボトムを接続する部品です。
アルミの鋳造品なので型のつなぎ目が出っ張っている事があり、これを金属ヤスリで削ってマストに
はめ込めるようにするのは下っ端のKobantoの仕事です。
もう昼近い時刻でしたので、小田急SCの作業場にも6〜7メートルの海風が吹き渡って来ました。
いそいそと出艇して行くレーザー仲間を横目で見ながら、Kobantoはなおもギコギコとヤスリをかけ続け、
下積みの苦労をかみ締めているのでした。
♪お ど ま ぼんぎりぼ〜んぎり・・・・・♪
マストの作り方:その5
スプレッダーを取り付ける。
スプレッダー・ブラケットを取り付け位置に固定し、ドリルで穴を開け、リベットを打って取り付けます。
お昼に食べたかき氷もすぐに蒸発してしまい、二人ともちょっと熱中症気味になってしまいました。
なんとなくボーっとしています。
大「ブラケットがマストにピッタリくっつくように、押さえといてくれィ。」
小「ヘイ。こんな具合で?」
大「合ってるかな?・・・マア合ってそうだ。」
ドドドドドッ(ドリルの音)
大「・・・・・ウッ、ちょっとズレたかな・・・」
小「・・・・・ひと休みしましょうか。」
マストの作り方:その6
スティフナーを取り付ける。
スティフナーというのは、バングやアフタープラーのブロックを、シャックルでマストにとめるためのプレートです。
新しいスティフナーを手に何やら真剣に考え込んでいた大番頭親方が、「さっき、ノースのS石君が湘南港で
セッティングしてたから、ちょっと見せてもらおう。」と言い出しました。トップ・セーラーのセッティングを少しでも
マネしようというのでしょうか。Kobantoはデジカメを手に、急いでついて行きました。
そして、大番頭親方がS石さんにスティフナーを見せながら質問した事は・・・
「これ、どっちが上だったっけ?」
上下が分かったら位置を決め、タップ立てをしてネジで取り付けます。
これが済むと、ただのパイプのようだった素管もすっかりマストらしくなり、そろそろ今日の仕事も終わりに近づいて
来ているのが分かります。
マストの作り方:その7
ステイの長さをチェックする。
いよいよマストを立ててみて、ステイの長さが合っているかどうかを調べます。
河内丸の古いフォアステイはT型フックで新しいマストには合いませんので、サイドステイだけを付けてマストを立ててみました。
そしてレーキを測ってみると、サイドステイの長さが足りません。結局ステイ類は新調する事になりました。
小「ずいぶん、おアシがかかりそうですね。」
大「ウン。でもこのマスト、出来上がった状態で買ったらいくらだったと思う?」
小「え?おいくらで?」
大「そうさな、まず○○○○○円はするだろうな。素管で買ったから○○○○○円で済んだが。」
小「するってェと、自分たちで作ると○○○○円もお得ってェことに?」
大「その通り。だからやらねえテはねえってことよ。」
こうしてすっかり得をした気分になった大小番頭は、日の暮れた作業場を後にして家路につきました。
途中Kobantoは生ビール、大番頭親方はドリンク・バーで水分を補給した事は言うまでもありません。
© 2004 Kobanto