2004年12月18日の午後、江ノ島付近は良く晴れ、凪いでいました。
私は1時半過ぎに、レーザーに乗って湘南港から出航しました。風下側のデッキに座らなければならないくらい
風が弱く、小動岬の近くにさしかかった時にはそれもほとんど止んでいました。
沖からこちらに向かって来る漁船に気がついたのはこの時です。漁船は@の位置に見えました。私のレーザーは
この時点から衝突するまで、ほとんど動いていません。風が無くて動けなかったからです。
また、私はその位置で練習をしていたのでも休憩していたのでもありません。
「可能な限り速やかに」移動しようとしていたのです。
私は、もうすぐ漁船がレーザーを避けるために方向を変える頃だと思い、どちらに舳先を振るだろうかと注意していました。
ところが漁船はそのまま向きを変えず、私は大声で「あぶないです!」と3回ほど叫びましたが無駄でした。
事故の後、海上保安庁の人が漁船の船長に会いに腰越漁港に行かれ、その後で私に「船長の説明です」として
話して下さった事は次の通りです。
(1)(私のレーザーより)前にいたヨットを避けようと、そちらに気を取られてレーザーの発見が遅れた。
(2)船長以外の船員は、入港の準備のために船尾の方へ行っていて、前には人がいなかった。
そして船長から私にかかってきた電話の中で、私が直接聞いた話は以下の通りです。
(3)「避けようとして西に舵を切ったつもりだったけど、面白い事に、避けようとするほどそっちへ
近づいちゃって・・・」
(4)「お客さん(漁船の釣り客)は保安庁の人に、あんた(レーザーの私)が自分から飛び込んだんだから、
船長は全然悪くないよと証言してくれた。」(注:私は飛び込んだのではなく、落ちたのです。)
(1)から(4)を総合してみると、次のようになります。
(1)漁船には「他のヨットを避けようとしたためにレーザーの発見が遅れた」というやむを得ない事情が少しはあり、
(2)普段はもちろん前方に注意しているが、この時だけは入港の準備という(必要な)作業をするために船員が後方にいた。
(3)避けるための努力をしたが、なぜか避けられず、(4)レーザーに乗っていた人は自分から海に飛び込んで、
自ら危険を招いたのだから船長に責任はない。
漁船の関係者の人たちが海上保安庁の人に示そうとした、あるいは導いていこうとした「事実」とは、
このようなものだと思います。
もしもぶつけられた方が反論できないような状態になっていたら、最終的にそれが事実とされてしまうかもしれません。
でも、幸い私に怪我はなく、反論する気力を持っています。
(1)船長が気を取られていたほかのヨットというのは、私より前に出艇した2杯のFJの事だと思われます。
FJのいつもの練習場所は図の黄色い楕円のあたりです。漁船がそのそばを通ったとして、それは衝突位置の
数百メートル手前ですので、衝突までの間の時間のひらきが大き過ぎます。
また、もしそれがもっと岸寄りだったとしても、私が漁船に気づいてから衝突するまでの間、
他のヨットは全く視界に入りませんでしたので、漁船と他のヨットとは差し迫った状況になるほど近づいてはいないはずです。
これらの事から、他のヨットに気を取られた事と衝突とは無関係と言うべきだ思います。
(2)入港の準備というものは、入港する時には必ずしなければならない作業であり、当然のことながら大海原ではなく、
港の近くに来た時に行われるはずです。したがって、それをするために前方の見張りを停止する必要があったとすると、
船の行き来が多い港の近くで、いつも見張りを停止する事になります。そのような事があり得るのでしょうか。
「入港の準備という必要不可欠な作業が、見張りを停止した理由だった。」という説明は、
「習慣的に危険な航行をしていた」と主張する事にもなりかねません。まさかそのような事はないと思いますので、
その説明は、「今回の前方不注意には、入港の準備をするという、やむを得ない事情があった」と主張するための
ものだと思います。しかしそれは前述のような理由から「やむを得ない事」ではなく、
「あってはならない事」なのではないでしょうか。
このように、船長の説明の(1)と(2)は、過失を認めながらも、その責任の所在を「操縦していた人」から
「状況」の方へずらそうとするものと言えると思います。
(3)「避けようとして舵を切ったけど、面白い事に、云々」については、要するに操縦ミスをしたと言う事で、
何も不思議な事が起こったわけではないでしょう、としか申し上げようがありません。
(4)私は自分から飛び込んだのではありません。
漁船が接触するほど近くにいる状態で、スクリューの事を考えもせずに海に飛び込むなどと言う事は考えられない事です。
海に落ちて真っ先に「スクリューは止まっている!」と思ったことを、はっきりと憶えています。
衝突の瞬間は、次のような状況でした。
漁船がレーザーの20センチほど手前まで来た時にエンジン音が止まり、漁船は「行きあし」で前進して
レーザーにぶつかり、そのままレーザーを押し倒しました。レーザーは「海面に対して平行」よりは深く「180度の
沈」よりは手前の状態まで転覆し、私は海に投げ出されました。
私がレーザーを起こそうとしているときに、船長らしき人の声で(船尾の操縦室のあるあたりから聞こえましたので、
そう思いました)「大丈夫?」と言うのが聞こえました。私は返事をしませんでした。大丈夫かどうか
自分でも分からなかったためです。船端から顔を出して衝突の前から一部始終を無言で見ていた釣り客が、
その時も黙ってこちらを見ていました。
そしてレーザーを起こして乗り込んだ時、漁船が舳先を西に振り、腰越漁港の方に向けましたので、私はもう一度
ぞっとさせられました。船尾(つまりスクリューのある方)が私の方に近づいたからです。
私は「ひどすぎますよ!」と抗議して、船名と登録番号(らしきもの)を記憶した事を知らせました。
漁船の人たちは何も言わず、腰越漁港の方に去って行きました。(念のため時刻も確認しておきましたが、
後で海上保安庁の人に発生時刻を聞かれ、必要な事だったと分かりました。)
以上が今回の衝突の事実、あるいは「私が事実だと考えている事」です。
今回は、漁船が減速していて、海が穏やかで、私がライフジャケットを着けていたため、大事には至りませんでしたが、
日頃から猛スピードで湾内に侵入して来る船がめずらしくないのが実情です。もしあのスピードで・・・と考えると、
本当に恐ろしいと思います。
最後にもう一つ、「被害者のプライバシーは自分で守るしかない。」と言う事を付け加えたいと思います。
今回海上保安庁の人に「先方に電話番号を教えてもいいか」と聞かれて私が否定していたにもかかわらず、
「船長さんにぜひ教えて欲しいと言われたので」という理由で私の電話番号を先方に知らされてしまいました。
もっとはっきりと「電話番号は絶対に教えないでください」と言えばよかったと思います。他人の電話番号をその人の
承諾なしに人に教えるということは、日頃は常識とされていないはずですが、事故が起こった場合は常識が違ってしまうようです。
最終的に船長は電話で謝罪の言葉を言われ、後日何らかの被害が発見された場合は
保険を使う等の説明をされました。その保険のお世話になる必要がなさそうなのは、本当に幸運だったと思います。
今回のような事が、二度と「起きて欲しくない」・・・というより「起こして欲しくない」と思っています。