抵当権と賃借権をめぐる諸問題

 民法の一部が改正(担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律)され、平成16年4月1日から施行された。

 この改正により、賃貸物件仲介の不動産業者、ひいては宅地建物取引主任者にとって、とても重要な影響が生じるものと考えます。
 わたしはこの点をしっかり認識している不動産屋や宅建主任者は、まだまだ少ないのではないかと考えています。

 宅地建物取引業法上の論点でもあるので、以下簡単に検討します。

改正のポイントは3つ

1.短期賃貸借の保護制度の廃止
2.滌除(てきじょ)制度の抜本的改正
3.一括競売制度の改正

このうち今回は、短期賃貸借の保護制度の廃止についてふれてみます。

 改正前の民法では、抵当権設定登記後の賃貸借契約に基づく賃借権であっても、「土地に関して5年」、「建物に関しては3年」以内であれば「短期賃貸借」として賃借人は保護され、抵当権の実行による競売によって取得した新所有者に対しても、その契約期間は賃借権が主張できた。(旧・民法395条)
 通常、アパートやマンションの賃貸借契約は「2年」であることが多いので、当然これによって保護されていたのだが、改正法によって本年4月1日以降の契約に関しては、「短期賃貸借の保護制度」が廃止され、一切保護されなくなった。

 アパートや賃貸マンションを建設する際に、大家さん(オーナー)の多くは、銀行等の金融機関から借り入れをして建設資金を調達するので、アパートやマンションには銀行の抵当権が付いている場合が多い。
 築20年以上経ていれば、ローンが完済され抵当権が抹消されている可能性もあるが、わたしの経験では通常、アパート・マンションの7割〜8割は銀行等の抵当権が付いている。
 つまり、普通、借りているアパート・マンションの賃借人の多くは、「抵当権に後れる賃借権」なのです。

 そして、短期賃貸借保護がなくなったことで、この「抵当権に後れる賃借権」は、その契約期間の長短にかかわらず、抵当権者及び競売における買受人に対抗することができないとされました。
 抵当権が実行(競売)され買受人(新たな所有者)が代金を裁判所に納付したときは、賃借人は当該物件(建物や部屋)を明け渡さなければならない。そのかわり、一定の者に対しては、6ヶ月の明け渡し猶予期間が与えられるとするものです。(民法395条1項

 これは実は、大きな問題をはらんでいる。

 例えば、わたしがアパートを借りたとしよう。不動産屋の紹介で気に入った部屋があったので、早速、賃貸借契約を結んで入居した。当然、契約の際には宅建主任者から「重要事項の説明」を受け、この借りるアパートには抵当権が付いていることの説明(宅建業法35条1項1号で不動産屋に説明義務があります)は、受けていたとしよう。ところが、入居して間もなく、競売が実行されて、突然、新しいアパートの所有者から「部屋を明け渡して出て行け」と言われたら、出て行かなければならないのです。最近の競売手続きは以前よりも迅速になり、東京では5ヶ月程で完了するので、仮に6ヶ月の明け渡し猶予がされても、入居後最短では1年以内に出て行かなければならない事態が生じえます。。。なんら賃借人に落ち度がないにもかかわらずである。
 これは理不尽ですね!

 いままで短期賃貸借で保護していたのは、突然「出て行け」というような賃借人にとって理不尽なことを避ける為にあったのだが、この短期賃貸借制度を悪用する「占有屋」が競売妨害に利用することが多かっため、現実にはあまり担保が実行されず、抵当権の制度がうまく機能していないこと。銀行等が処理したくても悪質な競売妨害や執行妨害によって処理されずに、不良債権が放置され不動産が流動化しないetc...といった問題を解決するためというのが、今回の法改正の背景にあります。

 では、賃借人は泣き寝入りになるのか?「おれはこの部屋が気に入っているから出て行かないぞ!」
「訴えてやる!」として何か出来ないでしょうか?

 部屋を出て行かないで済ませる方法は難しいですが、可能性として、賃貸人である大家(オーナー)に責任追及出来るかどうかというと、これもかなり難しい。
仮に、賃貸人に何らかの落ち度があるとして訴えたとしても、競売されてしまう程、返済できなくなったオーナーにお金は無いだろうから、損害賠償しても支払うものがないとして不調に終わる可能性が大きい。

 では、仲介した不動産屋を訴える事はできないか!?っていうとこの可能性は大いにあります。

 賃借人の主張として、賃貸借契約を結ぶ際に、「抵当権つきである」との説明を受けていなかった。また「確かに契約時の重要事項説明書に書いてあるが、これがどういう意味で、この結果の可能性の説明がなかった!」。あるいは「賃貸人(大家さん)が、競売を受けるほど資金繰りに困っているような事実は知らされておらず、当該建物が差押さえがされるなどの危険性を知らされなかった」とか、「そのことで部屋を出て行かなければならないのは、仲介した不動産屋の説明不足であり、宅建業法違反である!」と訴えられ、退去の引越し代金と、移ることになって新しく借りた部屋の、契約料と礼金等及び損害賠償金○○を支払え!と請求されたら、裁判で認められる可能性は大きいです。(この場合、損害賠償は仮に認められるとしても僅かな金額だと推測しますが。)そして、業者のみならず、説明義務のある、従業員の宅建主任者も過失があると認定され、責任を負う可能性もあります。

 何故なら、部屋の賃貸借契約の場合、不動産屋は「ルーティーンワーク」のような流れ作業でやっている場合が多く、契約ごとに、その建物の「登記簿謄本」を取って確認などしていない場合が多く見受けられます。(本来、しなければいけないものです!が、たかだか月5万円〜20万ぐらいの部屋の賃貸借ではやってないのが実情)謄本は3年前に取ったきりで済ましているなんてざらです。しかも、大家さん(オーナー)とは長い付き合いで、まさか資金繰りに困って、返済が滞っているなどとは知らない場合(オーナーも不都合なことは知らせないでしょうから)がほとんどでしょう。

 ここが「落とし穴」となります。

 3年前に取った登記簿謄本で抵当権つきとの説明はしたが、実際は賃貸借契約を結ぶ時点で、「差押え」の登記(差押えは登記事項なので、謄本で確認できます)がされていたら、業者の過失は明らかなので、上記の例とは違い、もし訴えられた場合は、ほぼ確実に負けてしまいます。実費の損害分(退去費用や移転費用)のみならず、損害賠償請求も認められる可能性が大きいと考えます。

 このように、検討してみると、今回の法改正の与える影響が大きいのが判ります。
不動産業者としては、たとえ、部屋の賃貸借契約であっても、直近の登記簿謄本を取って「差押え」等がないかどうか確認する。そして、大家(オーナー)の状況がどうであるか、日頃から緊密に連絡を取るなどして、何か変化はないか目を配り、つきあいを疎かにしない。賃貸借契約を結ぶときに、賃借人に対する「重要事項説明」を丁寧にきちんと行う。等が重要です。

 当然といえば、当然のことなのですが、これがいかに大変で負担となるか!?
業者ならお判りになるでしょう!!!

 しかも、後の問題とならないように詳しく説明したがために、賃借人から「それなら、不安なので抵当権の付いていない物件を紹介してください!」などと言われてしまう可能性もあります。現実に抵当権の付いていないアパート・マンションは少ないので、この要望に答えるのは難しい・・・

 以上のように、今回の法改正が、部屋を借りる人、賃貸仲介の不動産業者、宅地建物取引主任者にとって重要な影響をあたえることが判ります。

 今後、実務の現場、運用過程でどうなるかは、まだ未知数なところでありますが、十分注意する必要があります。


<参考サイト>
・法務省ホームページhttp://www.moj.go.jp/
担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律の概要(法務省民事局)

・衆議院ホームページhttp://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index.htm
担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案


ken1:2004年04月24日脱稿

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