週刊TIME記事 自閉症についての研究と教育の現在

自閉症の教育・生活援に関わる方々の関心に鑑み、この記事の要旨をお伝えします。

冒頭に、自閉症と診断され、読み書きはおろか、会話も不能だった13歳の女性が、特殊なキーボードの操作を教わるや、コミュニケーションを始め、意志疎通を行うに至った様子が紹介されている。(特異な例をもって、「自閉症とは、自分の殻に閉じこもって、外部との接触を拒否する」ものとする従来の常識が変わりつつあることを指摘。)

自閉症の原因については、さまざまな発表がなされている。遺伝、重金属の摂取に加え、最近では抗体が神経組織の発達に影響しているという説も登場。自閉症は単一の原因によるものでなく、いくつかの要因が重なって発症し、症状も様々なものがあるというのが医学界の一般的な考え。

自閉症の人の脳は、明かに通常とは違う特徴が見られる。脳神経網の発達に大きな違いがあり、自閉症では、短い局所的な連絡が発達していて、長い大域的連絡が少ないことが解って来た。脳の働きを見ると、自閉症の人では、同じ知的行為についても、健常者とは違う領域が活動していたり、活動の領域がごく限られていたりする。ただ、これが自閉症の原因なのか、障害を迂回しようとする脳の対応の結果なのかは不明。

コミュニケーションを覚えた自閉症の人からは、身体感覚の無いとの訴えが聞かれる。「自分が立っているのか、座っているのか、わからない。」「自分の手の感覚がない、他人の手に触れて始めて感覚が得られる。」爪を噛んだり、頭を壁に幾度もぶつけるというような行為は、これから説明できるかもしれない。

自閉症児の教育を行う3つの教育機関を紹介。

合衆国東部ニュージャージー州のアルパイン・ラーニング・グループ Alpine Learning Group では、ABAにもとづく教育を行っている。単純作業の繰り返しが重視されている。ABA (Applied Behavior Analysis 応用行動分析) は、心理学者スキナー博士 (B.F. Skinner) の研究をもとに、UCLAのロヴァース博士 (Ivar Lovaas) が自閉症児について行った実験研究を基礎としている。

同じくニュージャージー州の Celebrate the Children (子供を祝福しよう)と言う教育施設では、小児精神科医スタンレー・グリーンスパン氏 (Stanley Greenspan) の提唱するDIR (development, individual-difference, relationship based 発達、個人の差異、人間関係に立脚) 方を取り入れて、単純作業ではなく、やや複雑な課題を出して社会性の育成を行っている。DIRでは子供の目線の高さに下り、親子の間の情緒的な交換を不可欠の教育の基盤として重視する。

ボストンのヒガシ・スクール(Boston Higashi School 東京・武蔵野東学園の姉妹校)ではABAよりDIRに近い方法で、独自の工夫を多く行っている。体操を多く行い、空腹にさせる事で偏食を改め、また夜間の熟睡を促す。こうして生活のリズムを確立した上で、子供の個性を生かした教育に取り組む。

TIME(タイム)2006年5月12日(米州版)29日(アジア版)

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この記事において、社会に適応し、特段の成功を収めた人の例には言及があるが、一般的な、自閉症の人の就学・就職状況(統計)や、アメリカ合衆国における福祉施策の概要については、書かれていない。教育については、先進的・理想的な児童教育機関を取り上げているが、全体像は描かれていない。こうした教育を受けずに成人した人々が大部分であるが、この人たちがどのような生活を送っているのかは書かれていない。

工芸昴では、単純作業を重視する伝統が強かったが、当稿執筆者はDIRのようなアプローチを重視している。


記事原文

Inside the Autistic Mind
By Claudia Wallis TIME May 15th, TIME Asia May 29th http://www.time.com/time/archive/preview/0,10987,1191843,00.html (記事閲覧には要登録。英文のみ。)

参考リンク(訳者記す)

Alpine Learning Group
http://www.alpinelearninggroup.org/ (英文)

Celebrate The Children
http://www.celebratethechildren.org/ (英文)

Stanley I. Greenspan, M.D.
http://www.stanleygreenspan.com/ (英文)

Boston Higashi
http://www.bostonhigashi.org/ (英文)

武蔵野東学園
http://www.musashino-higashi.org/



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