選ばれた男たちは、音の壁を越え、宇宙を目指す
My Favorite Things vol.5

どんな映画?
 1947年、アメリカ空軍のテストパイロット、チャック・イエーガーがベルX−1機で音速の壁を破った。航空機による熾烈なスピード競争の中、次は宇宙へと人々の関心は移っていく。1957年ソビエトがスプートニクの打ち上げに成功。アメリカとソビエトの宇宙開発競争が始まる。アメリカは有人衛星計画「マーキュリー計画」を遂行し、7人の宇宙飛行士が選抜される。人類を宇宙に送り出すべく、彼らへの過酷な訓練が始まった…。テストパイロットという過酷な職業と初期の有人宇宙飛行計画を史実に基づきながら映画的脚色で描いた秀作。
 1983年アメリカ作品 監督/フィリップ・カウフマン 主演/サム・シェパード(チャック・イエーガー) スコット・グレン(アラン・シェパード) エド・ハリス(ジョン・グレン)

chobiのコメント
 宇宙開発の黎明期の男たちの物語。と同時に妻たちの物語でもあります。テストパイロットという職業を持つ彼女たちの苦悩もしっかりと描かれています。4度に1度の確率で家に戻ることができない夫の仕事。夫の死を覚悟して仕事に送り出す妻。そして宇宙飛行士の妻としてマスコミに追い掛け回され、人々に翻弄される日々。現在も命をかけた職業は多々ありますが、夫を支え家族を守る方々には頭が下がる思いです。とてもじゃありませんが、私には耐えられそうもありません。

 映画の前半は、音速の壁をはじめて越えたアメリカ空軍のチャック・イエーガー大尉を中心に話は進みます。演ずるサム・シェパードが、もうシブくて、とにかくカッコいい!!自分の乗る実験機に奥さんの名前なんかつけちゃったりして、う〜ん、奥様を愛してるんだなー。飛行前の決めゼリフ「おい、ガム一枚余ってないか。あとで返す。」もシビれる〜!


映画のパンフレット(右)とトム・ウルフの原作本(左)

 「世界最速の男」として『ライトスタッフ』を持ち合わせ、パイロット仲間の尊敬を集めながらも、学歴の問題で彼が宇宙飛行士に選ばれることはありませんでした。ただし、彼自身もNASAの「実験室のネズミ」になることは願い下げだったようですが…。それでもイエーガーが宇宙に想いを馳せていたであろうことは想像に難くありません。この後の彼は宇宙開発においては重要視されない存在になっても自分の仕事を淡々と続けることになります。

 映画の後半はテストパイロットたちの中から「実験室のネズミ」のごとく様々なテスト(中には「?」やちょっと笑えるテストもアリ。)を経て選び抜かれた7人の宇宙飛行士の話になります。(このアメリカ初の7人の宇宙飛行士のことは敬意を込めて『オリジナル7』といわれています。)人類を宇宙へ送り出す「マーキュリー計画」。ソビエトとの熾烈な競争。厳しい訓練。計画の成功だけが重んじられ、軽視されていく人間性…。(だって彼らより先に宇宙に行ったのはチンパンジー。ソビエトはライカ犬。)そんな中で彼らは人間らしくあろうとし続けます。その過程で互いに常に競争しながらも認め合い、絆を深めていく7人の姿がとてもいいです。

 現在でこそ、民間による宇宙旅行が現実となる日も近い世の中ですが、アポロ計画のときでさえ、使用されたコンピューターの処理能力が初代ファミコン以下だったのは有名な話。それより以前に、乱暴な言い方をすれば、弾道ミサイルの先に人を『やっと押し込める』スペースのポッド、もといスペースクラフト(ポッドという言い方はアストロノーツが特に嫌がったようです。)を取り付けただけの装置で宇宙空間に飛び出していったわけですから、かなりの冒険だったことは確かなのでしょう。しかし、「冒険」を恐れず未知の空間を開拓するのは、人々の夢であり、それを実現しようと努力するのが人間なのかもしれません。
 
 映画の中でロケットの開発中に技術者が何度も発射ボタンを押し、そのたびにロケットがあえなく爆発してしまうシーンがあります。公開当時は苦笑いができるシーンだったのですが、今はスペースシャトル「チャレンジャー」と「コロンビア」の事故を思いだしてしまい、複雑な心境になります。

 ところで、題名にもなっている『ライトスタッフ』=正しい資質とは何を指すのでしょうか?



特典映像いっぱいのDVD(左)とサントラ盤CD(右)

 私が考えるのは、『いかなる状況下においても自分がなすべきことをやり遂げることができる人』だと思うのです。それが死と向き合うことになっても…。そこにはテストパイロットだとかアストロノーツだとかの区別はないように感じられます。
 7人の宇宙飛行士が宇宙で見たもの、そしてチャック・イエーガーがNF−104を駆って大空へとのぼり高度12000フィートを越えた空間で垣間見た漆黒の空は、『ライトスタッフ』を持つ者だけが出会える光景なのかもしれません。

 このNF−104(実際の撮影に使ったのはF-104らしいです。)のテスト飛行に向かうチャック・イエーガーのカッコいいことったら!惚れます!(余談ですが、このシーンの格納庫に駐機されているF−86セイバーも好きですよん。)

 映画の全編を彩る、ビル・コンティによる音楽も秀逸です。既存のクラシック曲も使われているけれど、テーマ曲は文句なくカッコいいです!(NASAや宇宙関連のニュースの時などにBGMで使われたりしていますよ〜。)ただしですね、何となくチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の第1楽章を思い出しちゃうのは私だけでしょうか…。気になっちゃって、このコンチェルトを聞くだびにライトスタッフを思い浮かべるようになってしまった…。ま、いいんですが…。映画のラスト、「マーキュリー計画」最後のミッションでゴードン・クーパーが宇宙に向かう映像とこのテーマ曲がながれると、映画中の当時の人たちと同じように「よぉし、行けぇ!行って頑張ってこぉい!」と心の中で叫んでしまいます。

 おまけ1−7人の宇宙飛行士に勝るとも劣らない英雄、チャック・イエーガー本人はこの映画に技術アドバイザーとして参加していますが、酒場のバーテンダー役でも出演しています。准将とは思えない、いいオジサマの味、出してます。
 おまけ2−アメリカ初の有人弾道飛行を成功させたアラン・シェパードはアポロ計画にも宇宙飛行士として参加。1971年のアポロ14号のミッションで月面上でオチャメにゴルフやってたその人です。
 おまけ3−アメリカ初の有人軌道飛行を成功させたジョン・グレンは後に政治家になりましたが、1998年スペースシャトル計画(STS−95/ディスカバリー号)において再び宇宙へ飛び立ちました。当時77歳のおじいちゃま、エライ。

chobiのお気に入りシーン
 テスト飛行を待つベルX−1を見つめるチャック・イエーガーのシーン。ベルX−1機があたかも「あたしを乗りこなせるならやってごらん。」とでも言うかのように滑走路にたたずみ、それを見下ろすチャック・イエーガー=サム・シェパードの目。たまらん〜!!

                                          2004.07.12

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