逃げられるのかな



 原発事故が拡大した場合、50キロ以上(正確には60キロ)離れた我が家にも避難命令が出されるかもしれない、その時うまく逃げられるのかが心配であった。福島県だけでも、100万人ぐらいが避難対象になるかもしれない。風向きや降雨の状況で変わると思うけれど、単純に60キロと言えば、それくらいの人数になる。でも、いくら避難命令が出ても避難場所が確保できない状況では逃げようがない。動きようがないのだ。台風や洪水では近くの高台の学校などに一時的に避難すれば良いのだが、原発事故となると市町村毎まとめて遠くに移動しなければならず、いわば民族大移動のようなものなのである。宮城県や岩手県は自分のところで精一杯。北関東もどうだか分からない。山形県には避難民が殺到しそうだ。首都圏も混乱するだろう。青森秋田はそんなに受け入れるだけの余裕はなさそう。
 最悪みんなばらばらに好きなところへ行けとなるかもしれない。でもガソリンがないので自家用車では遠くに行けない。そもそも道路が大渋滞で身動き取れなくなるではないか。よほど計画的にやらないとうまく避難できそうもない。
 全国の都道府県に強制的に人数を割り振って、バスや飛行機で計画的に避難させるしかないと思った。でもバスや運転手の確保はどうする。地元だけで足りるのかな。足りない場合、放射線量が高いところへ他所から迎えに来てくれるのかが心配だ。自衛隊や機動隊、全国の消防などを動員するのか。避難計画を立てるだけでも何日かかるか分からない。結局長い間自宅待機になるだろうと思った。もう100ミリシーベルトは覚悟しよう、すぐには死なないから。などと様々考えたものだ。

 極端に言えば一人取り残されることも有り得ると考えた。そうしたらどうしよう。備蓄の食糧が尽きたらともかく遠くに一人で逃げなければならない。しかし山形に行くにも、新潟に行くにも途中山道である。まだ雪が残っている。バイクじゃ無理だ。歩いていくか。でも途中で野宿となると一晩で凍死してしまうだろう。関東方面にバイクで行けるだけ行って、ガソリンがなくなったら乗り捨てて歩こうか。でも受け入れてくれるところはあるのかな。そもそも当時足の指が一本凍傷になっていて、歩くのが辛いのだ。どれだけの距離歩けるのだろう。
 
 確かに私にも兄弟親戚はいる。でもみんな福島県外で遠いのだ。そこまでたどり着ければ何とかなるのだが、交通手段が混乱している状況ではどうなることか。毎日真剣に悩んでいた。



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