毒ガスを扱っていた |
だいぶ前のことになりますが、私は半導体関係のエンジニアだったので、毒ガスを扱っていました。その名はアルシン。砒素の化合物で、許容濃度0.05ppmという猛烈な毒ガスです。化学兵器以外では最も毒性が強いガスの部類でしょう。どんな臭いがするのか、私は嗅いだことがないのでわかりませんが、とても嫌な臭いだそうです。じっくり嗅いだ人はまずいないでしょうから、本当のことはあまりわかりません。当時会社で半導体を作るのに必要だったので、時々その毒ガスをやむなく使っていたわけです。 作業は長時間かかるので、いつも昼休みをはさんでやってました。その間は装置に付きっきりです。一応ガス検知器・警報器はついていましたが、バルブの開閉は手作業だったので、いつでもガスを止められるような体制にしていたわけです。食事もできないし、トイレにもいけません。もし警報器が鳴ると息を止めて急いでバルブを閉めると言ったあんばいです。 何年かやっていましたが、一度だけ警報器が鳴ったことがあります。さすがにびびりましたけれど、冷静に処置して事なきを得ました。つなぎ目部分がわずかに緩んでいたのでした。神経を使うこと、この上もなかったですね。 万が一大規模なガス漏れが起きたら、自分が死ぬだけならまだしも、多数の近隣住民に迷惑をかけてしまいますから、その責任はとても重大なのです。本当に死ぬ気で仕事をしていました。自分は死んでもなんとか他には被害を出さないようにしようと、それだけを考えていました。これで随分神経をすり減らしたので、そのうちその毒ガスは使用しない新しい工法に切り替えましたけれど、やっぱり今考えると、相当なストレスだったですね。 副産物としてできる白い粉、あの和歌山毒物カレー事件で使われたと言われているものですが、これも見ています。本当にきれいな白色でしたね。毒性は十分知っていたので、あれをシロアリ駆除に使っていたと聞いて、びっくりしました。しかも人にも使うなんて考えもしなかったですね。並みの神経じゃできないことです。 この他にも半導体では毒ガスを使います。毒ガスの上に日本の繁栄は成り立っていたと言っても過言ではないでしょう。もちろん最近では、万全の安全対策はとられていると思いますが。 なお日本で一番ガス事故が多いのは、意外にも窒素です。純粋な窒素を吸えばあっという間に絶命します。病院で酸素と窒素を間違えたという事故を聞きますが、窒素は安全なものだと思ってはいけません。窒息という言葉を思い出してください。 |
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