驚異のプロレスラー


 ある中堅のプロレスラーがいた。真面目さや練習熱心さでは誰にもひけを取らなかったが、なかなか勝てない日々が続いていた。その彼が突然変身したのである。と言ってもマスクマンになったわけではない。正真正銘強くなったのである。連戦連勝なのであった。
 彼からはオーラが発せられていた。対戦相手は近づくのさえ出来なくなったくらいだ。完全に戦意を消失するのであった。

 しかしある日を境に急に負けだしたのである。元の弱いレスラーに戻ってしまったのだ。これまでの強さは何だったのか。八百長じゃないのかと、ファンの間ではうわさになった。
 しかしまた連戦連勝を続けだしたのであった。今度こそ本物かと思ってファンはまた応援しだすのであった。ところがである、しばらくするとまた負けだしたのである。連戦連勝の後は連戦連敗を繰り返す、不思議なレスラーなのであった。

 あまりの不思議さに、テレビ局が調査に乗り出した。その結果驚くべきことを発見した。

 負け始めは決まって温泉のある町での試合だった。それ以降数日間は負け続けるのである。そしてそれからは勝ち続けるのであった。

 テレビ局はこの事実をもとに、直接本人に取材することにした。彼は言った。

彼「いやー、温泉に入るとつきが落ちてしまうんですよ」
TV「温泉でつきが落ちますか?」
彼「ええ、温泉で体の汚れを全部洗い流してしまうものですから」

TV「???」

彼「実は私の強さの秘密は、汚い体にあるのです。強烈なにおいで、相手の戦意を奪うのです」
彼「そして私は、温泉以外風呂には入らないのです」

TV「それで読めました。オーラというのはにおいだったのですね」
彼「はい」

 これ以来人々は彼をこう呼ぶことになった。

 そう、「驚異の風呂レスラー」と。


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