音楽を聴く


  私って片耳が悪いじゃないですか。えっっ、そんなの知らないよう、とおっしゃらずにまあ、私の話を聞いてください。

 左耳を悪くする前、私はかなりのオーディオマニアでした。随分レコードやCDを集め、オーディオ装置もそれなりのものを取り揃えていたのでありました。演奏会にも聴きに行きました。あれやこれやで、100万円以上は投資したでしょう。ほとんど唯一の趣味が、オーディオだったのです。当時の収入を考えれば、道楽に近かったのでした。
 それが突然左耳が聞こえなくなったのです。とてもショックでした。ステレオがわからない、いや音楽そのものがノイズとなって、とても聴けたものではなかったのです。だから最初はモノラルでも音楽は聴きたくなかったのです。しかし好きだった音楽が聴けないというのは、何としても悲しい、悲しすぎたのです。頭の中では、ちゃんと音楽が聞えるです。夢の中では、オーケストラが立体的に聞えているのです。しかし現実はまるで違うのです。とても違和感があって音楽は聴けたものではなかったのです。
 
 それでも数年後には、慣れてきたのか、なんとかモノラルなら聞けるようになりました。ある論文には、健常者と片耳の人とでは音に対する反応速度が違うというのが載っていました。確かにそうかも知れません。やっぱり耳が良かったころとは、訴えかけてくるのが違う感じがするのです。さらに悪いことには、私の左耳はわずかに聞えるのです。だから左右のバランスがすこぶる悪いのです。その上左は音がひずんで聞えるのです。だから大きな音はとても耳障りなのです。耳が悪いから大きな音で聴けばいいというわけではないのです。

 ですからバリバリどんしゃんのロックや、今はやりのテクノ、ポップスはうるさくてしょうがないのです。静かなクラシックの音楽や、昔の穏やかな曲が一番なのです。

 基本的に音そのものに過敏なのです。よく聞えないくせに、聞える音にはとても敏感なのです。頭で音を処理しきれないのです。特にパソコンのファンノイズはとてもいやなのです。雑踏も苦手なのです。事務所の空調の音でさえ、いやなのです。みんなとても疲れるのです。

 静かな山の中で、自然の音に囲まれて暮らすのが、私の理想です。贅沢かもしれないけれど。
 


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