コンピュータミュージック編 第5話   <果てしない夢>            


「コンピュータミュージックって本当に正確なのね。テンポもキーもまったく
 正確そのもの。それがかえって不自然なのね」
「うん、人間の演奏は必ずずれるし、気分がのった時とそうでないときじゃ音
 が違うしな」
「ピアノだって、左手と右手では少しタイミングがずれるわよ」
「そういうのも加味して、演奏が成り立っているんだね。だから正確過ぎるの
 も考えものかも知れない」
「かといって、不正確なのがいいというわけじゃあないのよね」
「まあ、コンピュータミュージックでも時に応じて音を少しずらすことは、楽
 譜いじればできるんだけど、いつもちょっとだけ前の音と違うというのは難
 しいんじゃないかな」
「そういうのができれば、コンピュータミュージックもかなり人間臭くなるの
 ね」
「うん、でも人間て複雑だから、どういう風に音をずらすかの研究から始めな
 いとね」
「音楽だけじゃなくて、心理学や運動生理学なんかも分からないといけないの
 ね」
「それだけ音楽演奏っていうのは、人間的ってことだ」
「聞く方だってそうよね」
「うん、その日の体調で聞きたくない時もあるし」
「朝と夜とでも違うし」
「ああ、複雑だ。人間はどうしてこんなにも不可解なんだろう」
「あんまり、根詰めて考えない方がいいわよ」
「そうだね。もっと単純に考えよう」
「せめて音楽の雰囲気を変えるぐらいはできないのかしら」
「それはできるよ。エコー入れたり、音を遅らせたり、いろんな効果を出さす
 ことは今でもできるさ。そういうのは結構発達してるんだ。ただ一つ一つの
 音に合わせてそれらを加減するのが難しいのさ」
「あとは、部屋の雰囲気を変えることね。電球の色とか明るさとか、カーテン
 の色も関係するわ。インテリアによっても、気分が変わって聞こえるものな
 のよね」
「うん、音楽って単純に音を聞くことじゃないんだ。それなら犬にでもできる。
 もっと高級な想像力の問題なんだ。だから、ベートーベンは耳が聞こえなく
 なっても作曲ができたんだ。むしろ音が聞こえない分、音が純化していった
 のかもしれない。ま、これはあくまでもぼくの想像だけどね」
「そう言えばあなたも」
「ああ、左耳が聞こえなくなっちゃったけど、夢の中ではちゃんと左右から聞
 こえてくるんだ」
「人間の脳ってすごいのね」
「ああ、だから新しいカラオケの話も最初はみんな想像の世界だったんだ。そ
 う、夢の中でこしらえたのさ」
「それでカラオケ夢工房なのね。でも試作品ができたじゃない」
「うん、音の評価は耳のいい人にお任せするよ。ぼくはもっと夢の続きを見た
 い」


 想像は創造につながり、夢は果てしなく続く。