カラオケ編 第15話 <まるちゃんの出前一丁> 「全国の皆さんこんにちは。マルチャンの出前一丁の時間がやって参りました。 私は司会の花本健一、みんな健ちゃんと呼んでね。さあて今日は福島県は郡 山市にやってきたぞー。会場は阿武隈川のすぐ近く、○○音響のグラウンド です。さあ出場者の皆さん、元気良くまずは喉ならしの歌を歌いましょうね。 それでは1、2、3はいどうぞ」 テレビでは人気のど自慢番組、マルチャンの出前一丁が始まっていた。この 番組は、トラックの荷台に作られたカラオケステージでのど自慢を競うという 単純なものであったが、3つの理由から視聴者、参加者に好評だった。 一つ目の理由は、ステージがトラックに乗って会場にやって来ることであっ た。会場にあたる町の人たちは、まるでサーカスを迎えるように喜んだ。日本 全国どこへでも、トラックが通れるところであれば来てくれるのである。 二つ目の理由は、カラオケの装置にあった。この装置はただのカラオケ装置 ではなかった。16チャンネル独立マルチ音源カラオケであり、並の生バンド ではとうてい太刀打ちできない代物であった。 三つ目の理由は、優勝者がこのトラックに乗って次の会場に乗り込むという、 対抗意識をあおることにあった。もちろん実際は汽車や車で行くのだが、番組 の構成上この様な形になっていた。 実は、この番組の誕生には次のような会話が深く関わっていたのである。 「いよいよ、マルチ音源カラオケも本格的になってきたね」 「うん、いろんな所で使われるようになったんだけど、こうなるとユーザーも だんだん欲が出てきて、高級システムでないと気に入ってもらえなくなって きたんだよ」 「最初は庶民の楽しみということで、ローコストを狙ったのに、今度は高級化 が必要になったのか、いやはや」 「人の気持ちは、どんどん変わる。これはしょうがない。変わるということは 発展するということでもあるわけだ」 「高級化なら音楽性の高いものも供給できるから、かえって好都合じゃないの かい」 「確かにそうなんだけど、やれチャンネル数を増やせ、やれパワ−を上げろと か言われれも、普通の人の手に届く値段には、すぐはできないよ」 「カラオケが庶民から離れたら、元も子もないね」 「そこで困っているわけさ。いい知恵貸してくれよ」 「うーん、ここは逆転の発想しかないな。超高級システムを作るんだ」 「なに言ってんだ、庶民が買えるわけないだろう。普通のスナックでも無理だ」 「別に庶民が買わなくてもいいの。利用できればいいんだ」 「そりゃそうだけど。じゃあいったい誰が買うんだ」 「そこがポイントだ。商売が成り立つなら高くたって買うだろう。だからそこ をねらう」 「商売と言ったって・・・。カラオケボックスか?」 「カラオケボックスも有望だけど、いっそのこと移動式のカラオケはどうだ」 「バスにのせて、動くカラオケボックスかい」 「それもいい。もう一つはトラックにのせるんだ」 「トラック?装置を降ろしたり積んだりが大変じゃないか」 「装置はそのままにして、荷台をステージに使うんだよ。左右の扉がはね上げ 式のトラックがあるだろう。あれを改造するの」 「なるほど。動くカラオケステージにするわけか。トラックだから大きな装置 も積めるし、内装を工夫すれば立派なカラオケステージにできるな」 「これで予約注文を受けて全国をまわる。名付けてマルチャンの出前一丁と言 うのはどうかな」 「マルチチャンネルだからマルチャンか。でも、季節によって需要が偏るんじ ゃないかな。夏はいいけど、冬はきっとさっぱりだぞ」 「そこまでは気がつかなかった。難しいかな」 「いやいい考えがある、テレビと結びつけよう」 「テレビ?大画面に歌詞を写すのかい」 「いや、のど自慢大会を開いて、番組で放送してもらうんだ。そうしたら季節 に関係なく人が集まるんじゃないか」 「なるほど、結構出たがりやはいるからな」 「そういうこと。寒くても暑くても、出たがりやは出たがるんだから」 「よし、これを○○放送に持って行こう。少しは謝礼が出るかな」 「あんまり欲張らないの」 この企画は○○放送に採用された。しかし、どんな謝礼が出たかは誰も知ら ない。ただ、カラオケのトップバッターが彼らだったのは事実だ。