カラオケ編 第16話 <マルチ音源音楽ハウス> 昔はみんな銭湯に行ったものだ。なぜかって。そりゃ高くって、家の中には 風呂は作れなかったからさ。 「ああ、マルチ音源、マルチ音源」 「どうしたの。最近うわごとみたいに、毎日毎日マルチ音源マルチ音源って」 「ああ、独立マルチ音源カラオケで歌を歌いたいよ」 「なんだそうなの。それじゃ実家から装置持ってきてあげるわね」 「あんなのじゃ駄目なんだ。もっとチャンネル数が多くて、パワ−があって音 がいいやつじゃないと」 「ぜいたくね。だいたい家の中じゃ大きな音出せないでしょう。防音だってし っかりしていないのに」 「ああ、マルチ音源、マルチ音源」 「いつまでも、そう言ってらっしゃい」 「ああ、マルチ音源、マルチ音源」 「おまえな、もういいかげんにしなよ」 「ああ、一度でいいから、高級な独立マルチ音源でカラオケを歌いたいよ」 「分かった分かった、いい所に連れてってやる」 A男は彼を外に連れ出した。 「ここだ」 「ここ?ここは、結婚式場じゃないの」 「そうだよ。ここに高級な独立マルチ音源カラオケがあるんだ」 「でも・・・」 「今日は何の日か知ってるかい。今日は仏滅だぞ。結婚式場はがら空きなんだ。 支配人に話はつけてあるから大丈夫だよ」 「そうか、それは良かった。A男さんありがとう」 彼は、喜び勇んで歌いまくった。 「ああ、これで20曲目だ。胸がすっきりした。A男さんどうもありがとう」 「なに、感謝するなら支配人のKさんにするんだな」 「Kさんどうもありがとうございます。これで長い間溜っていたものが、すっ きりと出ました。どうもありがとうございました」 「いえいえ、仏滅の日はお客様がいらっしゃらないんでいいんですよ。A男さ んのご紹介とあれば、お安い御用でございますよ。それにしても、お上手で したねえ」 「ねえKさん。こういう需要があるんだったら、一般に開放したらどうかな。 有料にしたら儲るんじゃない。資産の有効活用にもなるしね」 「お金を取ってまでとは、考えませんけど。お得意様にサービスと言うかたち ならいいかも知れませんね」 「宣伝効果を狙うわけか。お得意さんに人を連れてきてもらって、式場を見て もらうという手だな」 「さようで。なにもお金を取るだけが商売じゃないってわけで」 「でもね、A男さん、Kさん。大安の日はどうなるの?」 「その時は、あんたが出演料をもらって歌うの」