カラオケ編 第6話  <対決>


「うちでも新しいカラオケ入れたんですよ」

  とスナック“ラララ”のマスターはうれしそうに言った。

「どこにあるんだい。どこにもないじゃないか」
 
 客はまわりを見渡し、そうつぶやいた。

「むこうですよ。ほら」
「あれはボトルを置いてある棚だろう。カラオケなんかないじゃないか」
「あの格子みたいな棚の中にスピーカーがあるでしょう」
「あああれか。でもなんであんなところに」
「あれには訳があるんですよ。スピーカーが6つあるから、置くのにちょうど
 都合がいいんです」
「6つも?。なんでそんなにスピーカーがいるんだい」
「そこがみそ。独立マルチ音源カラオケですから」
「へーそうなの。あんたのところも独立マルチ音源カラオケにしたのか」
「ほかの店でもありますか?」
「ああ光洋3丁目のスナック“ルルル”にもあったよ。でもここのとはだいぶ
 違うなあ」
「どんなやつです」
「あれは門松のようなデザインだったな」
「門松?そんなカラオケありましたっけ」
「うん、音が門松の竹を斜めに切ったところから出ていたなあ」
「へえー、おもしろそうですなあ」

  と言いながらも、マスターの内心は穏やかではなかった。


  後日、スナック“ルルル”に見慣れない男が現われた。

「ママ、面白いカラオケが入ったって聞いたんだけど歌っていいかい」
「どうぞどうぞ。これはおもしろいですよ。楽器別に音が出るなんて考えもつ
 かないわよねえ」
「この門松みたいのがそうかい。でもなんで部屋の隅に置いているんだい。部
 屋の隅がカドになっているからシャレかいな」
「まあおもしろい。でもそうじゃなくて、歌うとき斜め後ろから伴奏が聞こえ
 る様になっているの。このほうが普通の人は歌いやすいんじゃないかって、
 販売店の人が言っていたわ。それに後ろが空くと、写真とか絵を飾れるでし
 ょう」
「プロならバックバンドだから、当然後ろから音が聞こえた方がいいけどな」
「音楽関係の方?」
「いや昔ちょっと遊びでね」
「それなら歌もうまいでしょうね。さあどうぞ、1曲」

  男は自慢の歌を歌ってルルルを出た。そしてその足でラララに向かった。男
はラララの前でサングラスと口髭を取り、慣れた足どりで中に入った。


「なんだいマスター、客に留守番させる店主はいないよ」
「ごめんごめん。長年の付き合いだから、つい甘えてしまった。そのかわり、
 今日は飲み放題だ」
「のみ放題だけじゃなくって、カラオケ歌い放題もだ。今日の客は俺だけだか
 らいいだろ」
「わかったよ。ほかの客が来るまでだよ」

「ああ、やっぱりバックバンド風のカラオケで歌うのは気持ちがいいなあ。昔
 一緒にバンド組んでた頃を思い出すなあ」
「そうだ、あの頃はみんな若くてかっこ良かったなあ」
「でもこんなカラオケが出て来るなんて、夢にも思わなかったよ」
「まったく、本当のバックバンドみたいだ。6楽器分の音が別々のスピーカー
 から出るとはおそれいったよ。まあ4楽器分でも良かったんだけど、昔を思
 い出して6台編成にしたんだよ」
「それにボトルの棚にスピーカーをおさめるとはね,メーカーも良く考えるよ」
「でもこれに強敵が現われたんだ」
「どういうやつだ。まさか16チャンネルフルに使うやつじゃあないだろうな」
「それも手ごわいけど、もっと意表をついたやつだ。門松みたいなデザインで、
 斜め後ろから伴奏するんだ」
「門松?並みの発想じゃあないな」
「そこが恐いんだ。素人向けだと言うけど、客は圧倒的に素人だからな」
「ラララでも別なの考えた方がいいんじゃない。素人受けするやつ」
「そうだな、宇宙船みたいなのから音をださすか」
「名前はUFOとでもして、シンセっぽい音でどうだ」
「うん、うけるかもしれん。ただ飽きられやすいかも知れないから、別の手も
 考えておこう」
「何かいい手はある?」
「そうだな、前からも音をださせよう。自分が音の中心になるようにすると喜
 ぶんじゃないかな」
「よし、これでラララも大繁盛だな」


 こうして独立マルチ音源カラオケの対決は、第1幕をあけたのである。