一般音楽編 第4話 <家庭音楽会> 「この電子ピアノ長い間誰も弾かないままになっちゃたね」 「あなたが情操教育とか言って○○に買ってあげたのに、結局最初の半年だけ でしたね」 「音楽よりスポーツの方がいいって言うんじゃしょうがない。まあ体が丈夫に なるのはいいことだけど、この電子ピアノもったいないなあ」 「誰かにゆずりましょうか」 「でも家具の一部みたくなっているから、愛着があるんだ」 「自分で弾いてみたら」 「聞くのはいいが、弾くのはね」 そのとき、 「おじさんこんにちは、Sです」 とSがやってきた。 「どうしたんですおじさん、浮かない顔をして」 「うん、この電子ピアノ何とか活用する方法はないかと思ってね。デザインも いいし手放したくないんだ」 「ああ、昔はやった手作り風の電子ピアノですね。誰か弾く人いないんですか」 「娘はあの通りだし、誰もいないんだよ」 「そうですか、それはもったいないですね」 「いい方法はないかね」 「いつもお世話になっているおじさんですから、いい知恵を出しましょう」 「なにかある?」 「これにMIDI端子ついてますか。それならいい方法がありますよ」 「MIDI端子?確かめてみよう」 「あったあった、INとOUTとTHROUがある」 「じゃあこれで自動演奏できますよ。コンピュータとソフトがあればね」 「コンピュータは私のノートが使えるよ。ソフトは買うしかないだろうなあ」 「買うのが筋でしょうね」 「よし、これで楽しんでみよう」 こうしてKは、しばらく電子ピアノの自動演奏を楽しんでいた。しかし欲が 出て来るもの。 「電子ピアノだけじゃあ、ものたりない。ピアノトリオとかカルテットも聞き たいもんだなあ」 「すぐぜいたく言い出すんだから」 「これでも俺はジャズファンだったんだ。結婚してからはおまえがうるさいっ ていうからあまり聞かなくなったが、血が騒いできた」 「また例の病気ですか。のめり込むと夢中になるんだから、勝手にどうぞ。私 は知りませんからね」 「さてと、音源を増やしてみよう。とりあえずベースとドラムスの音源を確保 して、ピアノトリオとしよう。あとはおいおい・・・」 こうして1月後、家庭音楽会が開かれたのであった。 「おじさん、やっぱりジャズはこうじゃなくちゃね」 「そうだそうだ、ライブに近くないとね」 「ライブと言えば、コンピュータミュージックより生録の方がいいですね」 「生録か。マルチトラックの録音再生装置があればなあ」 「プロなら持っていますけどね」 「きっと高いんだろうなあ。素人じゃあ、とてもとても手がでないよ」 「マニア向けに、カセットのもありますけどね」 「カセットかあ、あんまり音が良くないからいいよ。それならコンピュータミ ュージックでいい」 「DATというのはどうです。最近余り聞かないけど」 「ああそう言えばあったな。あれは音が良すぎて・・・」 「音がいいのをほっとく手はないですよね。あれでマルチチャンネルができれ ばいいんじゃあないですか」 「規格がどうとか難しいんじゃないの」 「マルチチャンネル再生専用にして、録音はなし。演奏テープ付き。ほかとは 互換性無し。100%特定用途向けにしたら、自分達で規格を決めてもいい んじゃないんですかね」 「うん、ICでは特定用途向けICが盛んだ。独自性を出そうとしたら、自分 で規格を決められないとね。人の作った規格で縛られるってのは、面白くな いもんだ。それに周りに合わすことばかり考えたら、精神衛生上良くない。 日本の企業も、オリジナリティーのあるもの、どんどんつくってほしいよ」 「まったくです。これからの日本は、欧米の後追い指向じゃだめですよね」 「みんな口ではそう言うんだけど、実際なかなかそうならないんだよね」 「それでおじさんも苦労をしてるわけですか。確かにおじさんは昔から変人扱 いされてましたよね。ぼくはそうは思わなかったけど」 「わたしのことはいいよ。それよりジャズの話をしよう」 「ジャズって即興的なのがいいですね。発想がいつも新鮮で。こういうのから 独自性が出て来るのかなあ」 「やっぱり、アメリカの精神なのかな、個性を大事にする」 「日本で個性と言うと、みんながまねして結局個性にならないんですね」 「日本の個性は、あーせい、こーせいだからなあ。人に干渉される個性なんて ないよなあ」 夜は更けていく。