一般音楽編 第9話  <指向性>


 ふだんあまり気がつかないこと、それは楽器に指向性があるということ。

「一つ面白いことやってみようか」
「なにそれ」
「自分が伴奏のメンバーになるんだ」
「歌はどうするのさ」
「それは誰かにやってもらおう。そうだB子がいいかな」
「じゃあ僕はギターをやろう。で、具体的にはどうやるの」
「メロディーとギターのパートを消して演奏させればいいのさ。単純な話」
「そうだね。簡単だ」
「スピーカーは普通のバンドのような配置にしとけばいいよ。で君はギターの
 位置に座って演奏すればいいってわけ」
「なんか余りにも簡単すぎる様な気がするけど、まあいいか。で君は何をやる
 のさ」
「装置をいじりながら、調整するよ」


  さて数日後。

「さあ始めるよ。B子用意いいかい。A男もいいかな」
「いいわよ」
「いいぞ」
「おお、なかなかいい調子だ。A男もう少しテンポ早い方がいいか」
「これでいいよ」
「B子はどうだ。ああいけない。歌ってる最中に返事はできないもんな。それ
 に黙って歌に合わすのが伴奏だ」

「さあて1曲終ったぞ。どうだ、実際歌ってみた感想は」
「最高よ。A男さん、結構ギターうまいのね」
「いやそれほどでも、でもちょっと不満だな」
「なんだい、それは」
「周りの音がどうもなあ、いまいちなんだよ」
「随分いい音だと思うけどなあ」
「音質はいいんだけど、音の聞こえ方がいまいちだ」
「どういうこと、良くわからないわ。歌っててちゃんと聞こえたわよ」
「そうだよ。良く聞こえてたよ」
「うん、おそらく僕の所だけだと思う」
「場所で変に聞こえるのかしら」
「うん、僕はスピーカーに囲まれてギター弾いていただろう。だから変なんだ
 よ、きっと」
「言ってることが、良く分からないなあ」
「おそらくこれはスピーカーの指向性の問題じゃないかなあ。普通の楽器とス
 ピーカーでは指向性が違うからだよ」
「なるほど、前で聞くと何ともなくとも、スピーカーの間に混じって聞くと場
 合によってはスピーカーからの音が聞こえなくなるんだ」
「うん、普通のスピーカーって前にしか音が出ないようになっているから」 
「うーん、これはやっかいな問題だぞ。いい方法考えなくっちゃ」
「でも悩むことないんじゃない。楽器と同じ様な指向性のスピーカーを作れば
 いいんでしょう、Sさん」
「まあ基本はそうだけど、楽器っていろいろあるんだよ」
「じゃあ普通のバンドで考えてみたら。例えばカルテット」
「ピアノ、ベース、ドラムスにギター、あとはサックスあたりかなあ、どうだ
 A男」
「サックスのの代わりにフルートとか、トランペットもあるよ」
「うーん、いろいろ考えるときりがないから、ある程度一般化しないと無理だ
 ろうな」
「ずいぶん難しくなってきたね」
「ああ」

「じゃあもっと単純に考えたらどうかしら。一緒に伴奏するのはギターぐらい
 にして、少し前に出て演奏するの。そうすればスピーカーの指向性をあまり
 考えなくてもいいんじゃない、A男さん」
「なるほど、少し前に出れば周りの音はみんな聞こえるってわけか」
「うん、それはいい考えだ。何も一緒に伴奏するといったって、コンピュータ
 ーミュージックと同等になることはないもんな」
「そうだよ、僕は人間なんだ。もう少し威張って前で演奏すればいいんだ」 
「よかったわね。これで一件落着ね」


  ボーカル無しで、ギターコンチェルトというのもいいんでしょうね。