主張編 第9話 <技術を超えて> 独立マルチ音源は技術的にはモノラルの集合体です。ですから何ら難しいこ とはありません。ただ一見面倒くさそうなだけです。一方ステレオはまったく 別の技術ですが、技術的に言えばこれは非常に優れたものです。2本のスピー カーで全ての楽器の左右の位置関係を表現できるというのは魔法のようなもの です。長い間オーディオの主流に君臨するだけのことはありますし、賢いやり 方です。 これに対して、独立マルチ音源は愚直な手法です。スピーカーもいっぱい必 要ですし安直に音楽を楽しむのには向いていません。でもそこには音楽と共に、 楽器と共にと言う深い思いがあるのです。愚直ながらステレオでは真似のでき ないことができるのです。日本人はすっかり音楽から離れてしまいました。街 角で演奏する光景は見られなくなり、代わりにオーディオが街中に満ち満ちて います。人の精神活動が、ただのBGMになってしまいました。感動する心が 失われてしまいます。これは寂しいことです。 もちろん独立マルチ音源になったからと言って、必ずしもこれは解決できる ものではないでしょう。しかし、これを機会に音楽についてもっと考えて欲し いのです。感動する心を取り戻してほしいのです。心の中に音楽が食い込んで 欲しいのです。それが日本人の心を豊かにするのだと思っているのです。 人は皆安易な方向へ流れて行きます。電化製品の歴史を見れば、それは一目 瞭然です。リモコンが流行るわけです。しかし人間の精神活動はそう安易なも のではないでしょう。音楽をとってみても、ただ寝そべってステレオを聞いて いるというのでは、文化と言えるのでしょうか。寝そべりながら感動する事は 少ないでしょう。感動しない人生など面白くもないでしょう。たとえささやか なことであっても、感動する心は持ち合わせたいものです。