心情編 第2話 <夢から覚めたら> 「花も嵐も踏み越えてだって?どうやって嵐を踏み越えれっていうんだよ」 「まあまあ、歌の歌詞、話のたとえですよ」 「花を踏み越えてだって、花がかわいそうじゃないか」 「まあまあ、これもお話」 「いい加減な歌詞つくるな」 「もう、うんと古い歌ですから」 「おれならもっといい詩作ってやる」 「どんなのです?」 「こんなのどうだ」 中年酔っぱらいが作った詩はこんなのでした。 夢から覚めたら、外は雪。 だけど心は暖かい。 きっと、きっと、夢のおかげだ。 外は雪、雪、雪。 心は春、春、春。 「へえー、見かけによらずにロマンチックなんですね」 「人を見かけで判断するんじゃないよ」 「いや、これは失礼しました」 「詩っていうのは、素直な気持ちで作ればそれでいいんだ。売れるとか売れな いとか、うまいとかうまくないとか考えちゃ駄目だっていうの」 「曲もそうなんでしょうね」 「ああそうだ。曲だけじゃない、カラオケ装置もだ」 「カラオケ装置もですか。でも売れなければメーカーが困るでしょう」 「素直な気持ちで作ればいいの。そうすりゃ自然に売れるよ」 「なるほど、初めから欲を出すなってことですか」 「そう、目先の欲に目が眩むとだめだね」 「なかなか参考になりますな。でも簡単に欲を出すなと言っても難しいでしょ うね」 「うん、経済活動だからな。金にならないことやれないよな。そこでだ。最初 は自分の趣味でやるんだよ」 「趣味でねえー。そしたら何とかおたくになっちゃうんじゃあないですか」 「いいの、自分で好きにやれば。自分のやりたいようにやってこそ、素直な気 持ちになれるんだから」 「自分だけ良くても、ほかの人にはさっぱりと言うの結構ありますけどね」 「それでもいいの、やりたいようにやるのが大事なの」 「そうなんですかね」 「そうなんだよ。世界の大発明ってだいたいそうじゃないか。みんな夢を追っ て飛行機をこしらえたのさ」 「ずいぶん失敗した例がありましたけどね」 「いいのそれでも、カラオケなら失敗しても死ぬことはない」 「装置から火が出て焼け死んだりして」 「そんなの、料理作る場合もおんなじだよ」 「がんこですねえ」 「ああ、がんこだ」 「うらやましいなあ」 「そうかい」 「夢があるっていいですね」 「単純な夢とはちょっと違うな」 「そうですか」 「うん、自分だけの夢じゃないんだ。みんなも楽しめる夢を考えているのさ。 ついでに売れればなおいいな」 「どんな夢です」 「独立マルチ音源カラオケさ」 「どんなやつです」 「それは秘密さ。さあて酒が覚めてきたから帰るとするか」 彼は店を出た。外は雪が降っていた。しかし彼の心は暖かかった。帰り道、 彼は詩を口ずさんでいた。 酒から覚めたら、外は雪。 だけど心は暖かい。 きっと、きっと、酒のおかげだ。 外は雪、雪、雪。 心は春、春、春。 お酒の飲み過ぎには注意しましょう。でもお酒を飲んで夢を語れたら、最高 の幸せではないでしょうか。