悪口編 第1話 <悪口雑言> 「何だよマルチ音源は。さっぱりわからないよ」 「そうそう。得体の知れない妖怪みたいなもんだな」 「一つのスピーカーから一台の楽器?そんなのいんちきじゃないのか」 「どっかでごまかしてるんだきっと。それに何だ、こけ脅かしじゃあるまいし、 スピーカーいっぱいくっつけてさ」 「だいたいMIDIなんて知らないよ、そんなの。そもそもコンピュータで音 楽なんて邪道だよ」 「邪道も邪道、ついでに外道だよ」 「音楽はステレオに決っているの。ずっとそうやってきたんだ、どこに問題が あるんだ」 「それに、カラオケに使うだって?寝ぼけるのもいいかげんにしろってんだ。 カラオケなんぞモノラルで十分なの。ステレオでももったいないよ」 「そうそう、だいたい思い上がりなんだよ。日本のカラオケ文化を変革するだ なんて。カラオケなんてあんなものなんだよ。大きな声出してストレス解消 すればそれで良いんだから」 「カラオケが高級文化になるわけないだろ。なにを考えてるんだろうね」 「そうそう、あれは単純な遊び。おつきあい。そんなもんさ。ひとりよがりの エンターテーメントなんだから」 「高い金出して、変な装置作ってさ。それで満足なんてどっかおかしいんじゃ ないの。何の役に立つんだ」 「世の中にはおかしな事を考える人もいるってことさ。奇人変人の類だね」 「音楽はステレオに限るよ。CDはいっぱい出回っているし、全然不自由じゃ ないね」 「わけの分からないことに付き合ってられないよあ。マルチ音源なんて」 「そうそう。わざわざ難しいことやるなんて、ばかだよ」 「いままで通りが一番良いのさ。金かけて変なことやる必要ないよ」 「まったくだ。何が新開発だ。景気が回復すりゃ物は売れるんだから」 「そうだそうだ。今までのを改良するのが常道だよ。改良さえすればだんだん 良くなるんだから」 「わけが分からないものが出てくるなんて世も末だよな」 「俺たち、そんなのに組しないもんね。マルチ音源なんかまともな人がやるも んじゃない」 「そうそう、”新しい発想を”なんて言ったってただのスローガンなんだから」 「それに新しいことやったら苦労するだけだもんね」 「問題起きたら、担当者の責任だし。後始末が大変だ」 「まったく、まったく」