悪口編 第3話  <とまどい>


「困ったな、マルチ音源を担当することになったぞ」
「まったく、まったく、変なものを押しつけられたもんだ」
「中身が良く分からないもんな」
「それにピンとこないんだよなあ」
「いろいろ言われるとその場じゃ分かったような気になるんだけど、何かごま
 かされているような気がするんだよなあ」
「ステレオとは、全然ちがうみたいだしなあ」
「そもそもMIDIって良く分からないんだよ」
「電子楽器の話されてもちんぷんかんぷんだもんな」
「それに、どうしてもひっかかるんだよな、スピーカーがいっぱい要るという
 のは」
「だいたい不経済だよ。何で楽器毎にスピーカー分けるのか理解できない」
「それが音楽の本当の姿だと言うけど、そんなのどうでもいいもんな。音がち
 ゃんと聞こえりゃそれでいいもんな」
「そうそう、何も難しく考えることないもんな」
「そもそも、どっか発想がずれてるんだよ」
「あの人、なに考えているんだろうね」
「音楽的、音楽的って言うけど良く分からないね」
「アンサンブル、アンサンブルとも言うけど、これも良く分からないね」
「音楽なんてステレオで聞くものだと思っているもんね、俺たちは」
「うん、凝りだしたらきりがないもんね」
「それに、あの人は音楽からオーディオ考えるってよく言うね」
「それも良く分からないんだよね、意味が」
「先に音楽ありきとも言うね」
「何のこっちゃ。そんなのあたりまえだよな」
「音楽があるから、録音してステレオで聞いているんだもんな」
「生演奏を再現したいとも言うよな、あの人」
「だから、録音して聞いてるのに。いいステレオ使えば、生演奏みたいだよな」
「そうだよな。何かかみ合わないんだよな、あの人とは」
「どこが違うんだろうね、まったく」
「頭の構造が違うのかな」
「そんなに利口そうには見えないけどな」
「感性の問題かな」
「そんなに鋭そうじゃないけどね」
「じゃあなんだろうね」
「わかんないんだよね。それが」
「ただの変人かなあ」
「きっと誇大妄想じゃないの。変わったことやれば楽しくてしょうがないんじ
 ゃないの」
「そうかなあ。いつもはおとなしそうなんだけどなあ。それに結構まじめそう
 だし」
「だから益々分からないんだよね。変人なら変人らしくしてればいいのにね」
「ほんとは違うんじゃないのかなあ」
「どう違うのさ」
「それが分かったら苦労はないんだよ」