大声で泣きました
私の胸にすがって慧子が大きな声で泣き出しました。ガンの告知を受けたからではありません。その時は、「腎臓ガンと言われてしまった」とかなり明るく告げました。その後も表面的には元気な調子が続いています。しかし彼女が泣いたのは、
いつもお世話になりまして、ありがとうございます。 木曜日、いつものように迎えにいきましたら、娘が、開口一番、「先生、病気になったんだって!」と、とてもショックな顔で言いました。 そして、事実をきちんと話してくださったことを、私に、それは、つらそうに伝えてくれました。 先生の胸中をお察しすると、私も胸がつまる思いで、娘の声がだんだん小さくなっていったようでした。 正直なところ、娘は 学校に行くより、塾が楽しいと言っておりまして、月、木は部活もそこそこに、帰宅しております。
「千羽鶴を折ったら、先生 元気になるかな?」 子供ながらに、先生が早く元気になってくださる方法を模索しているようです。どうぞ、ゆっくりご静養されまして、元気なお身体をとりもどしてください。まだまだ教えてやっていだきたい時間はたっぷりあります。 娘も私も、慧子先生がお元気になられる日を心待ちしております。
というメールを頂いたためです。 「まだわずか3ヶ月たらずの付き合いしかない私のことをこんなにも真剣に心配してくれる子がいるのが嬉しい。皆やさしい子や友達ばかりで私は本当に幸せな人間や。嬉しくて嬉しくて涙がとまらへんの」と泣きじゃくりました。 そして先日、中2の女生徒が手渡してくれた封筒を開けると、
私が安念塾に入って1年3ヶ月くらいたちました。長いような、短いような・・・ 最初、先生がガンだと知ったときはすごくショックでした。先生は自分で“元気だよ。”と言っているけれど本当は、すごくつらくて悲しくてなやんでいると思います。
私が先生にしてあげられることは何もないけれど、先生をいつも応援しているのでがんばって下さい。そして、また最初のあいさつで ”I’m fine, thank you.”
と、ハートの模様入りの便箋に書いてありました。 日頃からほとんどしゃべらない子供からのものだっただけに、この夜もまた泣きました。
7月3日に告知を受けたのですが、7日から8日間オーストリア観光旅行の予約を入れていました。 先生に相談すると「楽しめると思うなら行ってきなさい。手術のことが心配で楽しめないと思うなら止めなさい」と言われました。 慧子は「楽しめます」ということで、旅行に行くことに決定し、ウイーンの国立オペラ劇場で開催されるモーツアルトの夕べのチケットもインターネットで申し込みました。 帰国後すぐに入院、手術ということになり、子供たちやご父兄の皆さんに、卒塾生の大学生による代講を了承していただきたい旨の手紙を出しました。ところが、MR検査のために打った造影剤のために全身に蕁麻疹が発症、皮膚科の先生から「旅行などもってのほか」と言われてすべて急遽キャンセル。 直前のキャンセルだったため、多額のキャンセル料を払った上に、造影剤の薬害が消えないために入院もできず、毎晩教え続けることになりました。子供たちが「先生、大丈夫?」と声をかけてくれます。「これ、僕のお守りやけど」と言って、大きなオモナイトのお守りをかしてくれた子、画用紙に“GOOD LUCK”と描いてきてくれた3人組、お見舞いと励ましのお言葉を書いて月謝袋に同封してくださった多くのご父母の皆さん、検査日には毎回付き添ってくれる友達、タクシーで安居寺まで行ってお守りをもらってきてくださった知人、毎日30分お祈りをしてくれる東京の同級生、噂を聞きつけてメールをくれる卒塾生たち、・・
毎日毎日「皆さんのおかげで生きせさせていただいている」と実感できると言っています。 長崎や沖縄などの悲惨な事件のニュースを聞くにつけ、いい地域に住んでいることのありがたさが身にしみました。
術後8日で退院
塾生は勿論、ご父母、ご近所、知人の皆さんに一ヵ月半以上に渡ってご迷惑とご心配とをおかけしてきました慧子の腎臓ガン騒動も、8月19日の退院でひとまずけりがつきました。長い間本当にありがとうございました。
さきの「散居の風」で紹介させていただいたお便り以外にも、たくさんのメール等を頂き、心強く手術に臨む事ができました。CTの造影剤による薬害は完全治癒に3週間ほどかかりました。ガン巣が見つかった7月初めには、お腹に4箇所の穴をあけてガスを注入する腹腔鏡による手術を予定していましたが、下旬になって、最先端の開腹と腹腔鏡の併用手術ということになりました。このため、従来の腎臓ガン開腹手術は25センチ切るのですが、今回は5センチで済みました。小さい分だけ他の臓器に与える傷が少なくて済み、回復が早いというものでした。
11日午後の麻酔室入室から5時間で手術完了。予想通り、直径約5センチのガン巣を持った腎臓が摘出されました。悪性か良性かの病理検査の結果はまだ出ていませんが、腎臓内膜は破れておらず、他の臓器への転移の可能性は少ないとのことでした。
手術の日の夜こそはHCU(高度治療室)にいましたが、翌日昼前には病室に戻されました。本人は腕もお腹も下もチューブにつながれ、体をほんの少し動かすだけで「痛い、痛い」と言っていましたが、その次の日から「起き上がれ」「歩け」の指示が出ました。20数年前、アメリカにいた時、親友のアメリカ人が出産の際、3日目で退院したときの驚きを思い出しました。「いたわり過ぎてベッドに長くいると、筋肉が弱るだけでなく神経や臓器まで機能低下する」ということだそうです。慧子の主治医もこの説の信奉者らしく、毎日「歩いとるか」と詰問したそうです。胃腸とは関係がないということで、3日目から普通食となり、6,7日目に抜糸を終えました。まだお腹の中が痛く、特に寝起きする際は激痛が走るのですが、「傷口は完治した」ということで翌19日午前に退院となりました。
家の中でもすり足で歩いています。大きな声も出せません。中学1、2年生の授業は卒塾生の大学院生に頼んでいます。今しばらく皆さんにご迷惑をおかけしますが、ご容赦ください。
慧子が直接ガンの告知を受けましたが、表面的にはかなり冷静に受け止めたようでした。しかし、日ごろから人一倍元気印だっただけに、私には、
「ガンです」と 告知を受けし その日より
躁と鬱とを 繰り返す妻
と映りました。でも、私がすぐさまインターネットの国立がんセンターのホームページで検索すると、「5センチ以下は初期で90%以上の治癒率」とあったので、治療ミス以外はほとんど心配していませんでした。私はガンも数ある病気の一つにすぎないと思っています。よく言われるように「一病息災」で、自己免疫力を高めてガンと共生していけば良いと考えています。6年前に乳ガン4期と宣告されながら、元気に暮らしている慧子の友人がいます。何の治療も薬も飲んでいません。私も将来ガンの告知を受けても、ガン==死に至る病 という旧来の亡霊に負けないでいきたいと思っております。
学習塾の便りが、病気の話になってしまいました。でも、子供たちを含めて皆一生元気に暮らせるわけではないので、考えるきっかけになってくれればという思いで、経過報告をさせていただきました。前号の発行以後に頂いたメールの中から2編を転載させてもらいます。
* 島 健大 君(慶応大学法学部2年) 7/30
自分の所属している大学のサークルに、去年の今頃に急性の白血病を発病した同学
年の女の子がいました。以前からよく貧血になったりしていたらしいのですが、突然のことにも笑顔を絶やさずにいました。結局残りの半年を病院のベッドで過ごすことになったのですが、何とか病気を克服して戻ってきてくれました。これから一年くらいは短期の検査入院を繰り返しながら大学に通うことになったのですが、彼女は、「自分の身に起きたことに悲しみ、恐怖し泣いたこともあった。闘病生活はつらかった。それに一年みんなに遅れたけど、自分を助けてくれる、応援してくれる人がたくさんいることを改めて知った。決して無駄な一年ではなかった。」と笑っていってくれました。
僕は、自分がいままで無事健康に過ごせていたから、彼女がいったいどんな心境で闘病生活を送り、あの言葉をみんなに伝えたのか分かりませんが、彼女の強さには言葉にならないほどの感動を覚えました。
慧子先生もこれから長い闘病生活を送られることになるのでしょうが、常に前を見つめてがんばってください。
先生の病状がどれほどなのかは分からないので無責任なことをいうようですが、癌は決して治らない病気ではありません。いろいろ調べてみましたが(先生達もなさったでしょうが)、末期患者の回復なども少なからず報告されています。先生の周りには大勢の友人や生徒、先生を支えてくれる人がたくさんいます。そしてそばには正義先生がおられます。おふたりにはいままでいろんな困難があったことでしょう。今回も二人三脚でがんばって病気を克服してください。
* 福野高校野球部 鷲塚 広一 君 7/18
先生お久しぶりです。自分は現在福野高校の3年生であり卒塾生です。妹から慧子先生がガンだと聞き、心配になりメールしました。
自分が教えていただいたころの元気で溌剌とした口調が印象的だったので、聞いたときはとても驚きました。
今日、夏の高校野球の富山県大会が開幕しました。選手宣誓の中に「自分を支えてくれる人に感謝してプレーしたい」という言葉がありました。
自分が福野高校のユニフォームを着てプレーできるのも先生の指導があったからだと思います。
試合では先生への感謝の気持ちを忘れずにプレーします。
自分や晴央(福野のキャプテンです)のプレーで先生に元気をあげたいです。
元気なお身体を取り戻されることをお祈りしています。
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