ピラミッドと日本の土偶が同じ時期
                            3/9-17, 2012

 ピラミッド、スフィンクス、ナイル川、アスワン・ハイ・ダム――エジプトといえば、これを思い出さない人はいないと思います。写真やDVD、テレビのドキュメンタリーでおなじみの光景です。私は、小学5年生の時に読んだ漫画にでてきた象形文字や独特の壁画に魅せられ「絶対エジプトとメソポタミアに行きたい」と思いました。今回60年ぶりにやっとその夢が叶ったのです。何事でもそうですが、「聞く」と「見る」とは大違い。というか、やはりその文化を育んできた人々の息吹や風土、環境の中で感じるものこそ本物。ましてや、4500年前に栄えた一大文明の遺跡が、直接見られるのです。

ガラスなど何の間仕切りもないところがほとんど。なかには直接触ってもだいじょうぶな遺跡もあり、私もそっと手のひらを当てて、その手を心臓の上に押し当て、古代のエネルギーをもらってきました。4500年前というのは、日本ではまだ縄文時代中期で、「縄文のビーナス」と呼ばれる国宝の土偶が作られた頃。その頃にもうすでにこんな文明が存在していたと思うと本当に驚きです。しかもそれに触れることもできたんだから。「バーチャル」の世界なんかクソ食らえです。小学生の頃からの夢が叶ってチョーハッピーでした。
 去年1月のいわゆる「アラブの春」での民衆蜂起による革命の余波で、「カイロ考古学博物館」に立ち寄られるかどうかは未定と言われていたが、入館できた。文字通りエジプト中から集められた遺物がぎっしり。本来なら、毎日すし詰め状態なのに、現地の日本語ガイド曰く「みなさんは貸しきり状態でラッキー」。世界一高価といわれるツタンカーメンの黄金のマスクもゆっくりと鑑賞できました。17日に帰国後、下旬に大阪にやってくると知り、間一髪で見られてチョーラッキー。(ちなみに、大阪のツタンカーメン展は連日最低2時間待ちだったそうです。)

革命後は観光客が激減、私たちが革命後初の日本人観光客だそうで、彼も「1年ぶりに仕事にありつけたよ」と喜んでいました。この博物館の目の前に、10数階建ての法務省関係のビルが立っているのですが、ビル全体が真黒こげ。革命の時に群集に放火されて燃えてしまったそうだ。

ナイル川上流に建設されたアスワン・ハイ・ダムのために高台に移設された高さ33mのアブシンベル神殿を見学した後、クルーズ船に乗ってゆっくりとナイル川を下った。両岸にはコンクリートの堤防などなく、岸辺で牛や山羊が草を食み、やしの葉が茂り、その向こうには茶色の砂漠が望める。岸辺のところどころにある灌漑用水のくみ上げポンプ小屋には、Japan pump station と大書され、日の丸も大きく描かれていた。こんな事業こそ本当の国際貢献。

最終日、キザ地区にある、スフィンクスが守る三大ピラミッドが部屋の窓からすぐそこに見えるホテルに宿泊。翌日、そのピラミッドの中でも最大のクフ王のピラミッドの中に入った。途中の坑道は大人がかがんでやっと歩けるほどの幅しかなく、普段なら登る人と出ようとする人がすれ違えず苦労するというのに、まったく貸しきり状態。最上段の8畳ほどの墓室の奥に置かれていた縦2m、横1.5m、高さ1mほどの空の石棺に靴を脱いで入ってしばらく横たわってきました。口さがない人は「死んじゃった」と言っていましたが、私は「クフ王のエネルギーをいただいて再生したんだよ」とやり返しました。「長生きするぞーーー」

「山本山」「三つで千円」−−どこの観光スポットでも、バスを降りたとたん、貧しい身なりの子どもたちが、絵葉書や小さな細工物を手にワッと群がってくる。断っても断っても執拗に追いかけてくる。表現が悪いが、腐肉に群がる銀バエのよう。確かに安いことは安い。根負けして買う人がいるから、それで生計を立てているという。でも、学校にも行かず、将来どうするんだろう、と他人事ながら気になる。学校をでても、失業率が高いから、底辺の子どもたちは最初から、こうした生活をしているのだろうか。

 ところが、ある遺跡で、身なりのいい大学生たちの団体に出くわした。修学旅行だという。女生徒たちもベールで顔を隠したりせず、臆することなく話したり写真に納まったりしてくれた。「一緒の写真を撮らせて」と女の子の方から声をかけてくる。「日本は大好き。いつかきっと日本へ行きたい」と英語で受け答えする。

 現地ガイドに聞くと、貧富の差が激しく、それはムバラク前大統領の政策が間違っていたからだという。日本の倍以上の古い文明の歴史を持つ素晴しい民族なのに、その過去の遺産と、一部特権階級が握る石油とエジプト綿の輸出だけに頼っているなんて、悲しすぎる。土産物屋の店員や観光馬車の御者のおじいさんが言っていたように「これからはきっと良くなっていく」という言葉を信じたい。


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