プラハの春゛を訪ねて" --- 中欧への旅
 プラハは、チェコの首都というより、毎年5月に催される「プラハ音楽祭」で有名でしょう。 インターネットの検索サイトで検索しても、大部分が「プラハの春音楽祭」です。 でも、私のような60年安保世代にとっては、約40年前の「プラハの春」のほうに関心があります。 
 第二次世界大戦後、ソ連の共産主義圏に属していたチェコスロバキア(当時)1968年の春から「人間の顔をした社会主義」を謳った改革運動が起きました。 19606月、安保改正反対騒動で樺美智子さんが死亡してからは連日のようにデモに参加しながら、結局は何の成果も得られず、挫折感を味わったまま社会人になっていた私は、この民主化運動の行方を期待をもって眺めていました。 この一連の動きが「プラハの春」と呼ばれて、チェコだけでなく全世界から注目されていたが、その年の8月にソ連軍を中心とするワルシャワ条約軍が大挙して進入してきて、結局、改革は頓挫、より厳しい共産主義国家になってしまったのです。 このあとは、ソ連の崩壊とともに、民主国家へと変貌を遂げ、今はEUにも参加して経済復興に努力しています。
 私は、たとえ8ヶ月間だったとはいえ、勇気をもって立ち上がったチェコ国民、およびその文化に興味がありました。 旅行直前に、この「プラハの春」当時、プラハの日本大使館員をしていた春江一也氏の書いたプラハの春(集英社文庫、上下計900)を読みました。 これは、日本人大使館員と東ドイツ人高級官吏婦人との悲恋物語の形態をとってはいるが、私に言わせてもらえれば、共産主義、独裁主義非難の書物といえます。 著者は、当時、現場で働いていただけに、歴史的に見ても一級の資料を織り交ぜながらの生々しい雰囲気の描写は、まさに臨場感たっぷり。 主人公の言葉を借りて真の社会主義について述べています。 若かりしころを思い出しながら一気に読み切りました。 
 そしてプラハへ。 ソ連軍戦車部隊の侵攻を受けながら、武力闘争を試みずに無抵抗で耐えたおかげで、死者が出なかった上、数百年の歴史のある町並みはほとんど壊されずにそのまま残っていました。 確かに、日本と違って、レンガと石造りの建物ということも寄与しているとは思いますが、戦争をしなかったということが大きかったと思いました。 「民族の誇り」という言葉のみ旗の下で、世界各地で武力衝突が頻発していますが、果たしてどちらのほうが正解なのでしょうか。 日本のように、古くなったり、不便になったりすればすぐに取り壊してコンクリートのビルに建て替えるということをせず、古いままに改築しているので、町全体に統一感があります。 他の欧州地域と同様、電柱や電線、けばけばしい看板がないので本当にきれいに見えました。 しかも、中心街の道路だけでなく路地に入ってもごみはほとんど落ちていなかったし、タバコの吸殻もまったく見かけませんでした。 この「民度」の高さこそが、「プラハの春」を生み、武力弾圧に耐えて自分たちの文化を守ってきた原動力だったのだと実感しました。 ツアーの自由時間の間に、ソ連の戦車が占領していた中心街の大通りまで歩いて行ってきました。 
プラハ(チェコ)、ウイーン(オーストリア)、ブダペスト(ハンガリー)を周ってきましたが、特にウイーンの物価高には驚きでした。 ツアーでないと行けない感じがしました。 プラハとブダペストでは、ビールとワインがおいしいうえに安かった。 他のものも、それほど高くはないけれども、事前に旅行社から聞いていたよりは2割程度高くなっていました。

テキスト ボックス: 仮に社会主義再生のための運動が、例えば軍事介入といった極端な事態になったとしても、チェコスロバキアの人々が武器を持って抵抗することはありません。言論をもって果敢な闘いを展開するであろうことは当然です。言論が彼らにとって唯一の武器なのですから。でも、その弾圧と圧制は社会主義の最終的な敗北と破滅を予告する末期的行動なのです。こんな偽りの社会主義は二十一世紀まで生き延びることはできまん。
しかもこの歪曲された、まやかしの既成社会主義体制が崩壊することで生じる、社会主義の真理そのものが受ける打撃は、人類にとって悲劇的な結果をもたらすことになるのです。資本主義の悪なる部分に対抗するアンチテーゼがなくなるのです。資本主義はとどまるところなく暴走、その本性をさらけ出すことでしょう。競争と弱肉強食の独占論理が人間社会の隅々にまで行き渡り、好むと好まざるとにかかわらず、人々を窒息させるのです。社会主義の自滅のゆえに、資本主義そして経済帝国主義が野放しになるとき、大資本による果てしない搾取と人心の荒廃、そして環境破壊が進行し、人類滅亡の危機が迫るでしょう。
                       春江一也著「プラハの春」(集英社文庫) より 


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