「手はいつ生えてくるの」 小畑延子著 バシリコkk 254ページ幼い頃、母に、
「お手手、いつはえてくるの?」
と聞いたが、六十四才の私は、
もう、母に問う必要は無い。
私の中にある幾本もの手で、
人間を、より多くの人間を、
私は抱きしめる。
著者は、5歳の時、事故で肘から10センチ先を両腕とも切断してしまった。 両親は、当時最高の義手を作ってくれたが、著者はこれを使うのを拒否し、何事も両肘で済ませるように努力する。
12歳の時から書道を練習し始めたが、どのように大変だったかについては一言も触れていない。 23歳の時に日展に初入選するなどしたが、彼女にとっては書道はあくまでも趣味というか、心のよりどころ程度のもの。 師匠が書道の中央組織から離れると自分もついていき、主流から離れてゆく。 社会福祉関係の仕事をしている時に、無頼の画家と偶然知り合って45歳で結婚。 彼の破天荒な生活ぶりに翻弄されながらも彼を支え、また、自分でも個展を開くなどして、少しずつ書家として認められるようになっていく。
この本は、彼女の自伝で、こうした事実関係を年代を追って書いてあるだけといってもいい。 表現も技巧を凝らしたところは少しもなく、淡々と綴っているだけ。 しかし、ひとたび読み始めると、次はどうなるのだろうかという期待と不安で、読み続けずには落ち着かなくなってしまう。 障害を克服していく様などの苦労には全く触れていない著者の前向きな真摯な態度に引き込まれてしまう。 批判的なことは直接書いてないのだが、書道界や美術界の現状が垣間見られるのも興味を引く。
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