松本清張への召集令状      森 史朗 著、文春新                                                 317ページ
 戦前生まれの私としては、毎年8月が近づいてくると、なにかしら戦争と関係のある著作が読みたくなります。 今年は、表題の本を読みました。 松本清張といえば、「古代史疑」 「昭和史発掘」 「日本の黒い霧」 といった歴史物か、「点と線」 などのミステリー小説ぐらいしか知りませんでした。 
 著者は、編集記者として清張担当となり、清張の自宅に出入りして、いろいろ話を聞いたという。 清張は34歳で召集され、2年間ほど下級兵として悲惨な軍隊生活を送った話も聞いた。 清張は 「遠い接近」 というミステリーを書いているが、普通なら赤紙の来ないはずの中年の男性がなぜ召集されたのか、という謎を徹底的に追求して、原因を突き止め、復讐するというストーリー展開。 これは彼自身の軍隊経験を反映したもので、「国家権力の不正や腐敗への激しい憤り」を告発した作品だ、と著者は述べています。 著者は、清張の実話が、いかに巧みにこの小説に反映されているかということを、二人の対話や様々な資料の検索から丁寧に描き出し、「遠い接近」 を読んでいない読者にも、国家権力の恣意的恐怖を訴えかけている。 
 
 これを読めば、清張が
「古代史疑」「日本の黒い霧」どで見せる、反権威、反国家的な態度が、自身の心と肉体に刻み込まれた戦争体験の深い傷から出ていることがよく分かりました。

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