「市販本 新しい歴史教科書」(扶桑社)
           を読んでみました。
       高進スクール(高岡市) 楠 暁 塾長

              

今年度、私は協議会で教務委員社会科を担当しています。 社会科を担当する者としてはやはり今話題の「扶桑杜の歴史教科書」を読んでみなければならないんじゃないかと思い、さっそく購入して読んでみました。次に述べてあるのは私がこの教科書をザッと読んでみての適当な感想です。始めにお断りしておきますが、私は右寄りの人間ではないし、(会員の皆さんの判断は別として)左でもないんじゃないかと思っています。

 


 さて、結論から言ってみると、この教科書は非常に面白いと感じました。文章の書き方が今までの事実羅列型である教科書と違い、感情移入型で歴史物語になっているような印象です。指導要領にある「我が国の歴史に対する愛情を深め、国民としての自覚を育てる。」ために愛国心を刺激するように書かれてある教科書といったら言いすぎかもしれませんが・・・・。
 現在、県内はほとんどが東京書籍の教科書を使用していますが、この教科書との大きく違うところをいくつか述べると、
 1.   報道で周知のことですが、韓国、中国に迎合した書き方になっていない。
 つまり、ア)任那を書いてあること。イ)新羅、百済を韓国語で読ませない。ウ)元寇のときの高麗の抵抗に触れられていない。エ)倭寇では前期倭寇には日本人の他朝鮮人も多く含まれていた。後期倭寇はほとんどが中国人であった。オ)秀吉の朝鮮への侵略を出兵と書いていること。カ)韓国併合でイギリス、アメリカ、ロシアが異議を唱えなかったこと。キ)関東大震災のときの朝鮮人、中国人の大量殺害が詳しく書いていない。ク)南京大虐殺について、いろいろな見解があると記載したこと。ケ)従軍慰安婦の記載がないこと(これは全社のようです)などです。東京書籍はあまりにも韓国・中国に配慮するあまり、「秀吉の朝鮮侵略」では李舜臣の活躍、李参平を連行したことなど書かれているが、女の子の「李舜臣が英雄といわれるのはなぜだろうか。」という質問は日本の教科書ではやりすぎじやないかと思います。

2.神話を多く載せいる。
 この教科書では神武天皇の東征伝承や日本武専と弟橘媛、古事記の紹介(イザナキ・イザナミ・天照大神・スサノオ・ニニギ)についてページを割いている。批判本などでは問題になっているけれど、指導要領には「神話・伝承などの学習を通して、当時の人々の信仰やものの見方などに気付かせるよう留意すること。」とあり、まあ神話を載せるのは妥当かなと思います。今の東京書籍の教科書には神話の具体例がないし、新しい東京書籍の教科書にもないようです。
3.文化史に多くページを割いている.
今の東京書籍の教科書と比べてみると、文化史にページを割いてあり、その内容も中学生が日本の文化に愛着を持てるようになっている。口絵の写真ページが15ページ、本文中の写真もかなり多く、各文化についての特色も丁寧に解説してあり、中学生が日本の文化を学ぶのに本当にいいできになっていると思います。指導要領の「国家・社会及び文化の発展や人々の生活の向上に尽くした歴史上の人物と現在に伝わる文化遺産を、その時代や地域との関連において理解させ、尊重する態度を育てる。」という記載にあっている教科書です。文化だけを見ると本当にいい教科書になっているという感想です。
4.  為政者と圧政に耐える庶民と言った構図が薄れている。
奈良時代の貧しい農民の生活、室町時代の土一揆、江戸時代の百姓一揆などの記述が少なく、善玉の農民VS悪玉の為政者、という印象が薄れている。奈良時代は貧窮問答歌などの記述がなく、鎌倉時代では地頭に抵抗する農民の史料はなく、江戸時代の百姓一揆も飢饉のためやむなく起こしたのであり、「大名の圧政に対して、」といった書き方になっていない。実際に、鎌倉時代の阿て河荘の訴状は地頭と荘園領主(寂楽寺)との争いのなかで荘園領主が書かせたものだという指摘もあり、また江戸時代では平和な時代が長く続き商品経済が発展して地方の農村もそれなりに裕福であったはず。確かに年貢は四公六民、五公五民など言われているが、江戸時代中期以降は検見法から定免法に変わり単位当たりの米の収穫量も増え、また、商品作物の栽培が盛んになり、農家の収入は上がっていたはず。現在でも高額の所得者は4〜5割の税金を納めていることを考えれば、江戸時代の農村が貧困でいつも一揆ばかりをやっていたといういままでの教科書のイメージと異なる記述があってもいいのではないかという印象です。
5.   明治以降は政府と国民が力をあわせて日本を発展させてきたのであって、戦争ばかりしていた暗黒の時代と言った書き方になっていない。
 今の東京書籍の教科書は、明治以降日本は近隣諸国にこんなひどいことをしてきました。だから、反省をしっかりして、近隣諸国のためになることを考えていこう。というような内容ですが、この教科書は、日本人は頑張ってきた。戦争をしたのもそれなりの理由があったのだという印象です。
6.この教科書は歴史物語になっている.
 歴史的事実を並べてある今までの教科書と異なり、歴史のお話になっている。なかなか読みやすいので、未読の方は是非読んでください。

 以上一通り教科書を読んでみて感じた今までの教科書との違いです。この教科書は韓国について、やや意地悪く書かれていますが、この教科書が検定を通過したことが「日本の右翼化の傾向」と外国や一部のマスコミに言われるほどのものではないと思います。また、教科書以外に、この教科書の批判本も少し見てみました。それぞれの批判本にそれなりに納得のいく部分もあるのですけれども、批判本の執筆者は、中学校の指導要領を読んでいないのではないか、扶桑社の歴史教科書を批判するのみで、他社の歴史教科書を読んでいないのではないか、と思えるものがほとんどでした。指導要領には「細かな歴史事象への深入りをさける」という表現がありますが、批判本はことさらに細かな事象、解釈をあげて、批判しているという印象でした。
 最後に、この教科書の採択についてはいろいろな記事が新聞・週刊誌等に載っていますが、この教科書と、東京書籍などの教科書との2冊を生徒に持たせ、歴史にはいろいろな見方があるのだといったことに気付かせるのが一番いいんではないかと思ったりしています。

  以上は、富山県下の学習塾約60塾で組織している「富山県学習塾協議会」の情報誌「あじさい」2001年7月号に楠先生が投稿なさった記事です。 私は、社会科は門外漢ですし、この本を読んでもいませんし、楠先生も客観的にお書きになっておられると判断しましたので、私から楠先生に直接お願いして、私のホームページと塾便りに転載させていただきました。

 college 便りに、この8月に韓国旅行をして、若者たちと交流してきた横浜市立大学国際文化学部2年生 田島由希さんの「二回目の韓国旅行」が載っています。 この関連の事柄がかなり触れられていますので、ぜひご覧ください。

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