中年夫婦のアメリカ・ホームステイ
(15) 実証的な授業
「3日後の夜8時に**にある天文台に集まってください」
2年目の夏も、休みを取らず、毎日授業に出た。
一般教養科目としてとっていた「天文学概論」の授業の最後にこう告げられた。 当夜、大学からバスで30分以上かかるところにある天文台へ行った。 プラネタリウムを見て説明を受けたあと、広場に出て、望遠鏡で木星や土星を観察した。 図鑑に載っているような写真ではなく、直接鮮明な土星の輪を見たときには感動した。 初めての経験だった。 大学の授業でもこうした実証的な姿勢があることに感心した。 この講座は、週2回が教授の講義で、週1回が、大学院生による補足的な実験や資料説明という構成になっていた。 だから大学院生だからこうした指導をする余裕があるのだろう。 しかし一般教養科目の試験は、先にも書いたように、基本的に事実関係の知識を試す四択問題が200題ほど出るので、ただひたすら暗記の勝負。また、関西人のドケチ根性を発揮して、教授に直談判して、すなわち授業料を払わずに、余分の授業を聴講させてもらった。
一つが世界史。 授業案内を見ていると、テーマが「第二次世界大戦」とあったので興味をそそられた。 第一次世界大戦の背景から始まり、常識的な授業展開だったが、日独米の原爆の開発競争の話にさしかかると、教授は原子爆弾の原理や仕組みを図解入りで長々と解説しはじめたのには驚いた。 アインシュタイン博士らの研究の様子やロスアラモスでの秘密の開発風景を写したビデオも見せられた。 最後に、当然、広島、長崎の話になり、学生たちに「原爆投下をどう思うか」という題のレポート提出を指示した。 私は専門教科の試験になったのでこのレポートの結果がどうだったのか知らないが、歴史の授業でここまでやる姿勢に感心してしまった。もう一つは、アメリカ人の1、2年生を対象にした「英文法から見たよりよいレポートの書き方研究」という授業。 専門科目の試験は、レポートかエッセー・ライティングが基本。 レポートをちゃんと書けないと好成績が取れないどころか、卒業もおぼつかない。
このクラスは、日本の高校1年生と同様、文型の説明から始まった。 私は高校生の時、英文科を目指していたので、英文法についてはかなり詳しく勉強したし記憶もしていた。 私は話すのは大の苦手なので、専門の授業では全くといっていいほど喋ったことがないが、この教授の説明が私の習ったことと余りにも違っていたので「日本の高校では、五文型・・・という風に習いました」と質問した。 するとその教授は「君はひょっとすると私より文法知識があるかもしれない。 でもその考え方が、アメリカで主流だったのは20年前までの話」と言われた。 その場はそれで納得したが、帰国して塾を始めてからも相変わらず、五文型理論で指導している。 そのほうが我々日本人には分かりやすいと思うからだ。 それにしても、アメリカの大学では、新入生たちにこういった論文の書き方を指導する授業が組み込まれている。 日本も、「国語力が著しく低下している」と指摘されているが、ただ単に「本を読め」というだけでなく、こうした具体的な指導をしていかないといけないのではないだろうか。