中年夫婦のアメリカ・ホームステイ
(8) なんでも手作り Do it yourself. (DIY)
 

「明日から2ヶ月間、私たちの家に住みますが、怪しい外国人ではありません」
リックとマーサ夫婦は、旅行に出かける前日に、向こう三軒両隣に事情を説明して私たちを紹介して回ってくれた。

 その中に、ほぼ同じ世代のトムとフェイ夫婦がいた。 トムは市内のコミュニティー大学(短大のようなもの)の国語(英語)の先生。 フェイはワシントン大学部医学部の教授で、障害児教育が専門。 2人ともやさしく親切で、毎週洗濯機を使わせてくれる(リック家にはなかった) し、パンの作り方も教えてくれたり、時々ダウンタウンまで買い物に連れて行ってくれたりした。 

 彼らは、リック家の寝室の天窓がうらやましく、自分たちの家にも天窓を取り付けようと工事を始めたばかりだった。 リビングの天井裏にベッドマットを敷くことにして、その上の屋根をくり抜いていた。 それもこれもみんな素人のトムが1人でしているのだ。

 「オー、マサヨシ、ちょうどいい。 ガラスを運び上げるのを手伝ってくれ」 などと時々手伝わされた。 アメリカの日曜大工(DIY) というのは、単に机やいす、棚といった小物だけではないのだ。 家のペンキ塗りなど当たり前で、こんな大掛かりな改築まで手がける。 多くの家に作業小屋があり、かなり大型の工具をそろえている。 トムなどは下水道の配管まで自分でするという。 業者に頼むとべらぼうに高くつくからだそうだ。 確かに大規模なホームセンターが市内のあちこちにある。 それにしてもアメリカ人男性のたくましさには恐れ入った。 

私も2年間の滞在で、DIYの精神が身についた。 私が富山の自宅に帰ってきてから、セメントを買ってきてブロック塀を補修していた時、「業者に任せればいいのに」と直接言われたことがあった。 でも、ただお金の節約というだけでなく、自分で何かを完成するという喜びも大きいのだ。 家の周囲の赤さびていたトタン塀にも、コールタールを塗ったし、蔵に通じる渡り廊下の庇に樋も取り付けた。 男の役割分担を果たしているという気がしたものだ。

 数年前に、シアトルを再訪した際、トムは、広い庭半分を日本式庭園にするのだといって張り切っていた。 大きな石を買い込み、小川の流れを変える作業をしているところだった。 この小川はトムの家から道路の下を50メートルほど下りリックの家の庭に流れ出ているのだ。 トムには、造園師を頼むという考えは微塵もない。

 奥さんのフェイも、庭が何ヶ月荒れ放題でも意に介していない様子だった。 機織機でゆっくりと布を織っていた。

 知り合った最初の夏休みのこと。 彼女は、私が徒歩とバスで40分以上かかって大学に通っていると知ると、「私が送ってあげるわ」と申し出てくれた。 夏休み中で旦那さんも家にいるのにだ。 自分の研究がある時だけかと思ったら、毎朝9時前に迎えに来てくれた。

 「いや、研究することもあるし、子供たちの様子も知りたいのよ」 

彼女は元々はカナダ人で、厳格なクリスチャンだった。 

 私も自分の用事がある時なら、ついでにということはあるが、わざわざその人のために、しかも毎日などとても出来ない親切だ。 おかげでバス代が浮くし、通学も快適だったし大いに助かった。 確かにアメリカ人は開けっぴろげで親切な人が多いが、その中でも彼女は別格だった。 

     連載トップ          home          メール