第三に、線路や駅舎などの鉄道基礎施設=インフラストクチャの建設を
含めて、自立的 経営が強調されたことです。新幹線鉄道の場合をのぞいて
、在来線は鉄道敷設法の廃 止に見られるように、鉄道建設には国家は責
任を負わなくてよくなりました。ただし、 新幹線鉄道、具体的には整備新
幹線計画でありますが、82年7月の臨調基本答申を受け てその建設の凍結
が閣議決定されていましたが、分割・民営化時には、その取り扱いが 曖昧
であったため、国鉄改革法案成立後の87年1月に、凍結解除が閣議決定され、89
年 8月から整備新幹線の着工が一部実施され、今日に至っているという状
況であります。
1 提出された法案のうち、日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律案と一般会計における債務の承継等に伴い必要な財源の確保に係る特別措置に関する法律案を中心に、公企業論を研究し、特に近年では、国鉄改革の日本とドイツの比較を研究してきた立場から、意見を述べる。
3 しかし、債務が承継されたことによって生じる一般会計の負担増を、郵便貯金特別会計からの繰入金やたばこ特別税の創設を財源として対処されようとしていることに関して、第一に、論理的必然性がないこと、第二に、処理財源としてはきわめて限定的であり、その他の財源については言及されていないこと、などの問題点が指摘できる。
4 処理財源については、国鉄の債務発生の責任の所在、国鉄分割・民営化時における債務の配分方法の問題及び、国鉄清算事業団の承継債務累積の過程に即して考える必要がある。この点からすると、第一に総合交通行政を前提とした揮発油税などの自動車関係税の転用、都市における床面積一定規模以上の事業所への課税、第二にJR負担、第三に、既設新幹線売却益の充用などの方策が必要である。
5 とくに、揮発油税などの自動車関係税を鉄道投資等の公共交通の整備に充当することは、アメリカ合衆国、フランスやドイツ、あるいはスウェーデンなど多くの国々で実施されているし、社会的費用の負担の適正化という観点から、正当化されてきている。
3.2001年5月における衆議院国土交通委員会での桜井の意見陳述原稿
桜井は、2001年5月23日、衆議院国土交通委員会で、「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第73号)の参考人として意見陳述を行った。桜井に対して、山田正彦議員(自由党)、瀬古由起子議員(日本共産党)、日森文尋議員(社会民主党)、菅 義偉議員(自由民主党)から、地方線維持におけるドイツの事例、JR本州三社が完全民営化が行われた場合における地方線廃止促進の危惧、JR三島会社の経営再建方法、および、JR本州三社の完全民営化の是非などに関して質問がおこなわれた。
なお、意見陳述を行った参考人は、桜井の他は、東日本旅客鉄道株式会社代表取締役社長 大塚陸毅氏、日本貨物鉄道株式会社代表取締役社長 伊藤直彦氏、社団法人日本民営鉄道協会理事長 野崎敦夫氏、島根県知事 澄田信義氏、慶応義塾大学名誉教授 藤井彌太郎氏であった。
当日における桜井の意見陳述および質問に対する回答を含め、参考人質疑の詳細については、『第百五十一回国会衆議院国土交通委員会議録 第十三号』(2001年5月23日)を参照されたい。
以下は、桜井の意見陳述のために用意した原稿である。
日本大学商学部の桜井 徹です。専門は、企業形態論や公企業論を専攻しています。ここ10年間は、民営化の国際比較をテーマとして、とくに鉄道事業の民営化における日本とドイツの比較の研究に携わってきました。
そうした立場から、提出されています法律案「旅客鉄道株式会社および日本貨物鉄道株式会社に関する法律の一部を改正する法律」案についての意見を述べさせて頂きます。
この法律案は、結論的に言えば、矛盾ないしは対立する二つの側面を持っているのではないかと言うことです。JR本州三社の企業性ないしは営利性を促進する側面とその公共性を確保しようとする側面です。
第一の企業性・営利性を促進する面は、本法律案の本文に規定されていますように、JR東日本、JR西日本、JR東海のいわゆるJR本州3社を、「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律」、JR会社法の適用除外とする、ということに現れています。この適用除外によって、JR本州3社は、政府規制をうける特殊会社という地位から、日本鉄道建設公団国鉄清算事業団本部保有株が完全に売却され、他の民鉄会社と同じように鉄道事業法のみの規制をうける純民間会社なります。完全民営化が実現するということです。
ここで民営化の形態について言いますと、民営化には、法律形態のみを変更する形式的民営化と、所有形態をも変更する実質的民営化に大別されます。また、実質的民営化は、所有を完全に民間に移転するという意味の完全民営化と、所有の一部を民間に移転するという部分民営化があります。JRについていえば、1987年4月1日に公共企業体である国鉄から特殊会社であるJRに移行したことが形式的民営化にあたり、93年10月と99年8月の2回にJR東日本の株式が、96年10月にJR西日本の株式が、97年10月にJR東海の株式が売却されたことが部分民営化にあたります。そして、今回の完全民営化ということになります。
この完全民営化に関して二つの問題を述べます。
第一は、世界の鉄道事業の民営化の中で、完全民営化の事例は数が少なく、慎重に行う必要があるということです。鉄道事業の民営化は、わが国の国鉄改革以降、ドイツ、イギリス、イタリア、スウェーデンなどでも、実施されていますが、しかし、イギリスを除いては、形式的民営化や部分民営化にとどまっている事例が多いと言うことです。それは、鉄道事業の公共性を担保しようと考えているからであります。そのイギリスでは、わが国と分割のあり方が違うのですが、JR東海社長葛西敬之(たかゆき)氏の近著『未完の「国鉄改革」』でもふれられているように、「イギリスでは分割民営化による鉄道輸送サービスの劣化が大問題となり、分割民営方式の再点検、集成が大きな関心事項となって」(東洋経済新報社、2001年、327ページ)います
第二は、完全民営化は、たしかに企業の営利性を高めることでありますが、それだけに鉄道の公共性を阻害しかねない側面をもつているということであります。完全民営化によって、安全性が低下し、地方線の廃止が進行するという危惧が生まれているのです。とくにJRの場合は、民鉄とはことなり、規模も大きく、全国鉄道網を形成しており、鉄道事業の公共性が高いということを認識しておかなければなりません。
だからこそ、本法律案でも、付則第2条から第4条で、国土交通大臣は、「当分の間」利用者の利便の確保、適切な利用条件の維持、地域の経済及び社会の健全な発展の基盤の確保を目的に、会社間(7JR会社)における旅客の運賃及び料金の適切な設定、鉄道施設の円滑な使用その他の連携・協力の確保、営業路線の適切な維持、駅などの整備に当たっての利用者の利便の確保および地元中小起業者への配慮の三つの次項に関して、指針を公表し、必要に応じて、指導・助言を行い、場合によっては勧告・命令を行うことができると規定されています。この規定は、冒頭で指摘しました本法律案のもう一つの側面ですが、それは、鉄道事業法で規制される民鉄以上にJRに対して規制することを意味しており、明らかに、第一の側面である完全民営化と対立します。
完全民営化によって生じるかもしれない鉄道の公共性、JRの公共性が低下することを事前に防ごうとしたのかもしれません。問題は、国土交通大臣の指針の公表、指導・助言、勧告・命令がどれだけの権限があるのかは明確でないので、この付則の実効性がどれだけあるか疑問であります。
なお、本法律案付則で、地方税法の改正や自衛隊法の改正に見られるように、JR本州三社、民鉄とは異なりJR三島会社やJR貨物と同一の地位にとどまることになっていることを申し添えておきます。
最後に、言うまでもないことですが、本法律案は、JR三島会社やJR貨物が経営する鉄道事業については全くなにものべていません。たしかに、JR本州3社は、93年をピークに営業利益の減少が見られますが、それでも、三社合計で、営業利益は7000億円以上、経常利益は200億円以上に達しています。だが、JR三島会社は93年以降、低金利による経営安定基金からの収入源もあり営業利益だけでなく経常利益もマイナスを示すようになり、96年1月の運賃値上げもあって、99年度現在かろうじて、経常利益はプラスに転じています。JR貨物に至っては、94年度から99年度に至るまで営業利益、経常利益ともマイナスを示しており、完全民営化の見通しはもちろんのこと、鉄道事業の縮小・合理化しか残されていないのではないかと思われます。、地球温暖化防止や大気汚染防止のため、二酸化炭素や窒素酸化物の排出量の削減のためにも、モーダルシフトを図ることが求められていますが、貨物鉄道事業の再生は、そうした地球環境問題の観点からも重要な課題となっています。
JR三島会社についていえば、JR北海道とJR東日本との連携などのJRグループ間の再編成といった政策をとることが一つの選択肢として重要でありますし、JR貨物の場合には、社会的費用を内部化し、スウェーデンで実施されているような上下分離を前提とした自動車と鉄道との競争条件の平等化のための政策が 必要不可欠なのです。
JR三島会社やJR貨物については何ら展望をしめさないまま、JR本州三社の完全民営化をおこなうことは問題があると考えます。
私は、国鉄分割・民営化の問題点は、企業経営上の収支を自立化することに重点があり、交通政策、とりわけ陸・海・空の各輸送を調整することを含む総合交通体系に位置づけなかったところにあると考えています。いまこそ、上で述べたような問題を内包しているJR本州3社の完全民営化を拙速に行うのではなく、JRが経営する鉄道事業を、わが国の交通政策の中に位置づけていく必要があるのではないでしょうか。