終章










 桜花の町は例年と同じように、多くの人が集まっていた。桜の賑わう山の裾、城下町は観桜宴に集った人々であふれかえっている。
 人々に見守られ、兄の刀を手に、壇上へと上る。その舞台は一昨年こしらえたものに昨年手を加え、さらに今年も趣向を凝らして整えたものだ。同じ場所に、共に立っていた人はもういない。かわりの様に、竹寿が臣の列に加わり、座を退いた前神宮当主の側室の傍ら、控えるように、石川家の姫がいる。
 同じように桜が咲き、同じように人々が集うが、まったく同じではありえない。新しく色を添えてくれる人。――いなくなってしまった人。一年前の誓いは、かなわなかった。
 喪服のような白い衣服を纏い、その上に羽織った黒衣の裾を風に遊ばせながら、舞い散る桜に彩られた壇上で、流紅は静かに言挙げる。
「今年は、わたしの襲名のために集ってくれた者も多いと思う。お祝いの気持ちで足を運んでくれた者には申し訳ないが、今年の宴は、わたしのためのものにはしたくない」
 さすがに人々も、静かに流紅の言葉を待っている。一年でめまぐるしく変わった事情を、思い巡らす人もいるだろう。
「どうか皆で、兄上を悼んで欲しい。――それを踏まえた上で、浮かれ騒いで欲しい。あの人は、力強く頼もしくて、明るい桜花の人間が好きだったから」
 そして流紅の言葉に、同意を叫ぶ声がある。静かにではなく、厳かにではなく、けれども、亡き人を悼む心がある。



 一体どこから間違えたのだろうと、考える。どこからやり直せば、もっと良い道を選べたのだろうと、考える。
 だけども結局、考えても悔やんでも、たどり着く場所は同じだったような気がしてならない。誰もが、その人自身である限り。
 ――戦っていくしかないんだな、兄上。
 兄の傍にあって、彼を支えるのが望みだった。その人もなく、妹も遠くないうちには縁談のために国を離れる。茜子は決して揺るがない意志で、子どもを生み育てるだろう。
 めまぐるしくすべてが動き、絡み合い、そして離れていった。
 悲しみも喜びも、得たものを全て、糧にして進んでいくしかないのなら。
 戦っていくしかない。どうあってもやり直せないものを悔やむ前に、自分が選んだものと、それが引き起こした結果と。
 ――そして起きることすべて、悲しいことばかりでは、決してないのだから。



 空を見上げれば、澄み渡る晴天。遠く高く、鮮やかな青。
 中天には桜の山。薄く色づいた花弁が音もなく風に舞う。その中に重く座す、赤くて白い城郭。黒い瓦を陽に光らせて鎮座する。
 そして城下、山の下に集う明るい人々。
 悔恨の思いでこの舞台に立つ。いつでも、誓いを込めて人々を見る。城に座るときは、きつく、自分を戒める。なぜここに自分がいるのかと、強く言い聞かせて。
 そして、何よりも強くそれらを覆ってくれる、慈しみを抱いて。



 強く。
 鮮明にいつも願う。
 どうか、戦いに飽くことなきよう。








よろしかったら あとがき とかも。


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